2010年12月19日 (日)

長編SS 29 +お詫び

まず、お詫びを。

一月に一回更新!とか言っておきながらの、この更新具合・・

有言不実行にも程があります。

<サボっていたとか言う訳ではないのですが、ここに来て提出書類が急激に増え、

PCの前に座っても、SSよりも仕事関係のことで手一杯という・・

よくSSや漫画で、書類に埋もれて仕事をしていて・・なんて描写がありますが

現実でやられると、想像以上にキツイデス。

実体験すると、

これからはSS読んだときより感情移入できるかも。などと現実逃避したくなりました。

それはさておき、まずはキチンと長編の更新を。

長編 29

海鳴市郊外
海岸沿いに造られた公園にシグナムは向かっていた。
予定ではヴィータ達と共にコアイーターの探索に行くつもりだったのだが、
急な呼び出しを受けここに来たのだ。

「まったく・・・」
シグナムは、海風に煽られ乱れる髪を押さえながら呟いた。
(何もこんな時に、しかもあんな呼び出しがあるか)

それはシグナムがオフとなった直後だった。
同じくオフに入ったヴィータ、シャマルと準備をしていたところ
ヴァイスから緊急コールが入ったのだ。
何事かと慌てて回線を開くとヴァイスはいつもの表情でのたまった。

「これからデートしましょう」

       ○             ○

「・・っち」
何度も試みるが、
煙草と一緒に買った安ライターでは海からの風が強く火が点かない。
それでも何度も挑戦するが、すべて消されてしまっていた。

「なにをしている」
「あ。姐さん」
ヴァイスが煙草を咥えたまま振り向くと、
そこには手を腰に当て呆れた表情のジグナムが立って居た。

「まだ止めていなかったのか?」
「あ、はは」
シグナムの言葉に苦笑し、ヴァイスは振り返った。
「喫煙は禁止ではなかったか?」

煙草の臭いというのは吸っていない人間には良く判るものである。
その為、個人が特定されると危険が伴う仕事の人間は喫煙しないことが多い。
これは[その他大勢]となってしまい個人を特定されるのを防ぐ理由からである。

狙撃専門だと対象に近づく事はまず無いのだが、
狙撃という事情から恨みを買う事もあり、
ましてやヴァイスの様に狙撃専門では無い人間は
意外な所で身元に繋がる可能性がある為、
尚更個人特定を避ける為に禁煙するべきなのである。

だが心理的なプレッシャーからなのか、
そういった任務に当たる者にも喫煙者が居るも事実だったりする。
この辺りの矛盾は現場と上層部とで視点が異なる事例といえるのかもしれない。

「まぁこればっかりは」
「・・・やれやれ」
悪びれないヴァイスにシグナムは溜息を呟くと、
人差し指をそっとヴァイスの咥えたままの煙草の先に触れる。
すると直ぐに小さな音と共に、火種が生まれる

「おお!すんません」
ヴァイスは礼を言いうと軽く息を吸い込み、旨そうに紫煙を吐き出すのだった。

○         ○

「何か[動く]みたいですね」
「・・・ああ」
海辺の手すりにもたれ掛かり、ヴァイスが呟く。
その言葉に主語は無いが、シグナムも今の状況では何を指しているのかは直に判った。

「小娘どもが落ち着かなくなってます。
それにまだ噂なんですがアースラのデカイのを使うとか何とかって噂も」
「デカイ?・・・まさか!?」
ヴァイスの言葉に少し考え、たどり着いた答えに思わずシグナムは声をあげた。
アースラのデカイのといえば主砲のアルカンシェルしかない。

「しっ声を抑えてください」
「なんだ?」
シグナムの声を遮る様にヴァイスが口元を抑えた。
突然の行動に驚くが、ヴァイスのシンケンな表情にシグナムも従う。

「どうも動いてるみたいです」
「なんだと?」
どうやら管理局から追跡がかけられているらしい。
二人は小声で話を続ける。

(こんな場所でか?!)
(こんな場所なんで)
周りにはいつの間にか恋人達らしい、男女が大勢居た。

日が落ちつつある海辺の公園。
確かに恋人たちの逢瀬には持って来いだろう。
その為、二人の周囲近くにも何組かが寄り添い海を見たりしていた。
この中に管理局からの監視者が紛れていたら、シグナムでも見つけるのは難しい。
だがヴァイスがそれに気がついたらしい。
確かに今のはやてやフェイト達の動きを考えれば
上層部が尾行をつけないなど有り得ない。
そうシグナムが考えていると、

「失礼します」
「なっ?」
突然ヴァイスがシグナムの肩に手を回し抱き寄せてきた。
そしてヴァイスは開いている方の手で煙草を押さえ口元を覆った。

「八神隊長の勧めで見た映画だったんスけど、まさかこんなところで使うとはね」
そう言いつつ、タバコを咥えるフリをしながら上手く口元を隠し会話するヴァイス。

「なるほど、な」
シグナムのその意図を理解し、合わせる様にヴァイスの耳元で囁くように答える。
確かにこれならば遠目で見る限り、恋人同士が囁いているだけに見える。
それに、ミッドチルダでは魔法が発達しすぎた為、
読唇術などを使える人間はそう多くない。

この場所で魔法によって遠距離から音を拾おうとしても周りに人が多すぎるのと、
潮騒の音が邪魔をしてくれるだろう。

「どちらにしても尾行はついて来ますから、それは注意を」
「判った」
短く頷くことで返すシグナム。

「小娘たちには上手く言っとくんで」
「ああ。すまんな」
「礼は全部終わったら一度付き合ってくださいや」
「まったく・・・」
グラスを上げる仕草をするヴァイスにシグナムは呆れた表情を返した。
あっけらかんと言うあたり何処まで本気なのか判りにくい。

「口説くなら、ちゃんとした手順と贈り物の一つでも持ってきておけ」
「あーっと、そいつはすいません」
ポリポリを人差し指で頬を掻くヴァイスにシグナムも苦笑を浮かべる。

「なら今日はこれを貰っていこう」
悪戯っぽくシグナムは笑いとヴァイスの胸元に手を伸ばすと煙草を一本抜き出した。

「ピース(平和)か」
煙草に印字された文字を読むと、それを咥えた。

ヴァイスがライターを出そうとするがそれを手の合図で断ると、
ヴァイスのコートの襟を掴み少し屈ませ、自分は少し背伸びをし顔を近づける。

そして静かにヴァイスの咥えるタバコの先に、自分のタバコの先をそっと合わせた。

それはまるで唇を合わせるかのように静かに。
ヴァイスは静かに息を吐き火種を燃え上がらせ、シグナムも静かにゆっくりと吸う
まるで恋人たちの逢瀬のように。

火種がシグナムの咥えた煙草に移ると、二人は無言で離れ同時に紫煙を吐く。
そして何も言わず、一度だけ目を合わせるとシグナムは公園の出口へと向かった。
そんなシグナムをヴァイスは見えなくなるまで見送るのだった。

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2010年10月24日 (日)

長編SS 28

「この結界の中なら人目にはつかないから」
ユーノの言葉に3人は村から離れた場所で打ち合わせを始めた。

「じゃあその[コアイーター]は村の奥に在るんだな?」
「うん。奥というか村の奥にある隠し通路のようなものを通った先にある」
「よくスカリエッティ達に見つからなかったものね」
シャマルが感心したように呟く。
「そこは色々有ったようですが、今はとにかく時間が無いので事情は現地で説明します。が」
「が?」

「ちょっとその格好ではマズイのでこちらに着替えてもらえますか?」
そう言ってユーノが取り出したのは、淡い草色のワンピースとカーキ色のジャケットだった。

「これにか?」
受け取りながらヴィータは広げてサイズなどを確認する。
文明の程度などから現代と比べてしまえば劣るものではあるものの
けっして悪いものではない。
ワンピースは手編みらしく僅かだが編み目が不揃いなのが判る。
だがこちらの文明レベルから考えれば十分なものなのだろう。
ジャケットは革製である。

「先ほども言ったとおり、できる限りでこの世界の文明レベルにあわせる必要があるんだ」
ヴィータの声色を不満の表れと感じたのか、少々焦りながら説明するユーノ。
「ヴィータちゃん」
そんなヴィータの態度に注意を入れるシャマル。

「あ。ワリイ。そういうつもりじゃねぇんだ」
ヴィータもそんなつもりは無かった為、素直に謝る。

「とりあえず下にバリアジャケットのインナーなら着られる様な服にしました。
 流石に外装は無理ですが。それを着たら、二人は村に向かって下さい」

「判りました」
「判った。って二人?お前は?」
「僕も準備して向かうよ。でもその・・」
言いずらそうに言葉を濁すユーノ

「なんだ?」
何か問題が有るのかと訝しげにヴィータは視線を向ける

「はぁ~」
ユーノは小さく溜息を吐くと口の中でゴニョゴニョと何かを呟く

「なんだ?聞こえないぞ?」
「い、いや・・」
ヴィータ追求にユーノは焦る表情を浮かべる

「何か問題でも?」
シャマルは、噛み付きそうなヴィータを押し留め問いかけた

「いえ、その・・あの村には僕は入れないんですよ」
「は?」
シャマルとヴィータの目が点になる。

「あの遺跡は女性のみ立ち入りが許されていて、幾ら調査とはいえそれを破る訳にはいかないんです。」
「じゃあどうするんだ?」

「どうにかして合流するので、二人は先に行っていて下さい。
 この腕輪を村長に見せれば、遺跡まで通してくれます」
そういうとユーノはポケットの中から鈍く輝く腕輪を取り出しヴィータに渡した。

「これを見せれば良いんだな?」
「はい。以前一度来た時に、約束の証として受け取りました。
 『これをもっている人物達には調査をさせてくれる』と約束したので」

「判った」
何となく会話の流れに違和感があったが、ユーノがそう言っているのだから信用する他は無い。
ヴィータは素直に腕輪を受け取ると腕に嵌めるが、
直ぐに何かに気がついて外すとシャマルに渡した

「ヴィータちゃん?」
受け取りながら不思議そうに首を傾げるシャマル
「アタシがこんなのしてたら壊しちまうかも知れねえ。シャマルが持っててくれ」

「あ。そうね」
シャマルはヴィータの言葉に納得し腕輪を嵌めた。

サイズは問題ない。
やや小さめであるのだが重量は見た目よりも重く感じた。
銀製かと思ったが違うのかもしれない。

後衛のシャマルには特に気にならないが、
前衛のヴィータには少々気に掛かる重さでもあったのだろう。
(でもそれに気がつけるなら心配は無いわね)

魔力があるなら装備の重量は気にする必要ない。
だがここはコアイーターの関係する場所での探索
もしかしたら魔力を使えない状態での戦闘なども考えられる。
そうなれば己の身体だけが頼りに成ってしまう。
そんな時に、普段付けていないものを身に着けていれば、
思わぬ不覚を取るかもしれない。
それをヴィータは警戒したのだ。

シグナムが居ない今、前衛はヴィータが専門になる。
焦っているように見えるヴィータではあったが
ちゃんと状況を理解し、冷静な部分は冷静であることにシャマルは安心した。

「さて、じゃあ準備をするか」
そう言ってヴィータが声をかけるとユーノも頷いた。

「じゃあ二人はその腕輪を見せて、村の奥、遺跡の中に入って直のところで待っていてください。僕もそこに合流します」

「判った」
「判りました」
「では」
そういうとユーノは自分の荷物を持ち、村とは違う方へと小走りで走っていった。

                ○               ○

「ここか」
十数分後、ヴィータとシャマルは村のすぐ近くまで来ていた。
確かに中世のレベルなのだろう。
家は焼いたレンガが使われているが、一部木や自然石を利用したものも見える。

「誰に話せば良いのかしら?」
シャマルが左手に通した腕輪をみながら呟く。
「とにかく中に入ってみるしかねえんじゃないか」
ヴィータがそう言い歩きだそうとしたときだった。

「ん?」
「え?」
村の奥からこちらに向かってくる人影がみえた。

それは2人の子供だった。

「おねーちゃん達がシャマルさんとヴィータさんだね!」
背の大きいほうの少女。
といってもヴィータより少し小さい。おそらく8歳位だろう。が息を整えながら声を掛けてきた。

「はぁはぁ、はぁ。おばあちゃんに言われて来ました。」
少し遅れて追いついた少女が息を整えると、説明をしてくれた。
こちらは僅かに背が小さい。
顔立ちが良く似ており、姉妹らしい。

「ええ、そうだけど」
「おばあちゃん?」
シャマルが答え、ヴィータが首をかしげた
「おばあちゃんはここの長(おさ)なんだ。で
『女の人が二人来るから迎えにいって来なさい』っていわれたの!」
小さい方の子が元気良く教えてくれる

「そっか。じゃあ案内よろしくね」
『はい!』
シャマルが笑顔で伝えると二人で声を合わせて返事をしてくれた。

○               ○

シャマルとヴィータは二人の少女に先導され村の奥へと進んでいく
小さな村なので、数分で目的地の村長の家に着いた。

家の前には一人の女性が待っていた。
「お待ちしていました。私が村長をしていますフレアと申します。」

シャマルが口を開く前に相手から自己紹介があった
「あ、シャマルです」
「ヴィータです」
二人も慌てて名乗り軽く会釈をする
二人とも「村長」という言葉から年配の、しかも少女たちから「おばあちゃん」と聞いていたので
目の前の女性とは思わなかったのだ。
目の前の女性はどうみても中年、いや見た目では40代にもなっていないだろう。

「お持て成しをしたいところなのですが、かなりお急ぎとのお話を伺っています。どうぞこちらへ」
そういい家の裏手、村のさらに奥へと歩き始めた
フレアの口調と視線から、二人はすでにユーノが話をフレアに伝えていたのが判り、
素直についていく。
迎えに来てくれた少女二人も少し遅れながらも付いてきた。

                 ○       ○

そこは村長の家の裏から細い道進み川を越えた先、滝の目の前だった。

「あの滝の裏手、脇から回り込むことが出来ます。その先でユーノさんがお待ちです」
「え?」
「先に来てるのか?」
「はい。お二人がこられる少し前に。「先に行って準備をしておきます」とのことでした」
「そっか」

「では私たちはここで」
「ええ~」
フレアの言葉に少女二人が不満の声を上げる
「こら。ダメよ」
けれどフレアが軽く注意しただけで二人は大人しくなった
「直ぐにもどってくるから、待っててね」
「はーい」
シャマルが腰を屈め、目の高さをあわせて言うと素直に返事を頷いてくれた。
「そしたら、ユー姉ちゃんも一緒だね」

「え?」

一瞬の空白。

『ゆーねえちゃん?』
シャマルとヴィータの声が重なり、

「うん!ユーノお姉ちゃん」
元気に答える姉妹

「あ、そうですね。お待ちしています」
フレアもポン。と手を合わせ言う。
その姿はどうみても年若い女性にしか見えない。
だが、目を合わせた一瞬でシャマルは確信した。
(知ってて黙ってる)

「そ、そうね。直ぐに戻ってくるわ。さ、行きましょヴィータちゃん」
シャマルはそう言うとヴィータの手を取り有無を言わせず歩き出した。

「お、おいシャマル?」
「さ、行きましょうね」
「お、おい?」

引きずられる。
正確には背中を押されているのだが心情的に引きずられるイメージで
ヴィータはシャマルに連れられ先へと向かうのだった。

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2010年10月23日 (土)

一年越えです。 陳謝

お久しぶりです。

そして申し訳ありません。
生きてはいたのですが、まともに私生活を送れていませんでした。

前回の更新から約一年半。

放置しすぎるにも程がありますね・・・
仕事の変化や立ち位置の変化や、入院等など。

あまりの変化にSSを書くのを諦めそうになったりもしていました。
ただ、その間でもこのような辺境ブログを見てくださり、コメント、拍手をしてくださる方が居て。

待ってくださる方が居るなら、自分が広げた風呂敷を畳むのは自分でしなければ、「ものづくり」に関わる者として恥ずべき事と気がつかせて頂きました。コメントをくださった方々、拍手をしてくださった皆様。
ありがとうございます。

心からの感謝をこの場で申し上げさせていただきます。
そして何より、このSSを最後まで書き上げる事が今の私のやるべき事と思います。

まずは明日、2010/10/24中に28話を掲載いたします。
28話は半ばまで出来ているので以前の感覚と近いままと思います。
ただその為、話のテンションが上記の謝罪と微妙に異なる方向なのは御容赦を・・・。

その後は連続投稿は無理ですが、せめて一ヶ月に1話は掲載し完結させたいと思います。

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2009年5月24日 (日)

経過報告

すいません。本日更新予定でしたが数日遅れます

週末どたばたしていて、その後ss書いていたらそのまま机で寝てしまい

風邪でダウン・・・

我ながらなんだかなぁ。という感じです。

もちろん続きは書きあがり次第更新しようと思います。

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2009年5月18日 (月)

近況報告

更新が途絶えていたにも拘らず、様子を見に来て頂いていた皆様、

拍手を入れていただいた方々、ありがとうございます。

返事を返す事が出来ず申し訳ありません。

ですが全て大切に読ませていただいております。

遅すぎますが更新再開させて頂きます。。

プロットと走り書きの数々を見直していて、やっと流れが見えてきました。

実は年明けから急遽部署移動があり、新しい仕事に慣れるので手一杯だったのですが、先日急に元の部署に戻ることになりました。

約半年離れていたとはいえ、数年過ごしていた部署ですので、何とか勘も戻す事ができ、落ち着いてSSを考える余裕も戻りました。

でも、また一年で移動の可能性が・・・

締め切りに終われるような感覚ですが、それまでの間にどうにかSSを進めておきたいです。

しばらく主役(なのは、フェイト)が不在な話が続いておりますが

もうしばらくお付き合い頂ければ幸いです。

週末には次の話が上がると思います。それでは

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長編SS 27

ヴォルケンリッターの面々はユーノと共にある管理外世界を訪れていた。
面々と言ってもヴィータ、シャマルとユーノの3人だが。

ザフィーラは余りに消耗が激しいので、強制的に休ませた。
シグナム達もあの日以来まとも休んでいないので、
疲労は溜まっているのだが、
それ以上に失われた記憶を強制的に掘り返すというのは、一歩間違えば精神に障害をきたしかねない。
今回ザフィーラはそれを幾日も行ったのだ。
その為、本人は行くつもりであったが皆で強制的に休ませたのだ。
おそらく今はアルフが付き添っているだろう。

守護獣であるザフィーラが居ないとはいえ
このメンバーは探索には適しているといえた。

本来のヴォルケンリッターは
近接前衛で、いざと言うときには単独行動もできるヴィータ。
守護獣として防御に長け、遠距離からの捕縛も可能なザフィーラ。
管理局でも屈指の癒し手、そして支援魔法の優れた使い手のシャマル。
個人でも歴戦の剣士であり且つ、指揮能力を持つシグナム。

本来は主であるはやてを守り、その手足となる守護騎士達だが
個々でも十分すぎる能力を備えている。

平原や空での大規模戦闘だとしても、一個大隊に近い戦力だが
ヴォルケンリッターの真髄は4人が主の下、その手足のように動ける事にある。

そして今回は戦闘ではなく、遺跡探索
遺跡や建物の中などの狭い空間ほどその連携の強さが影響する。
互いの呼吸すら理解しているヴォルケンリッターに敵うものは居ないだろう。
今回はザフィーラが居ないが、
ユーノはザフィーラと並ぶほどの結界魔法の使い手である。
その穴を埋めるには十分だった。

        ○              ○

「この先なのか?」
「うん」

ヴィータの問いにユーノは振り返り答えた。
今3人は森の中にいる。
森と入っても密林ほどではなく、ある程度人の手が入った管理された森である。

勤務以外の移動なので3人は一度ユーノ個人の知り合いの所から
転移ポートを使いこの世界にやってきた。

「それでこの世界はどういった世界なんだ?」
「あ、それはね・・」
ユーノはポケットから古い紙を取り出した
「それは・・・革?」
「ええ、羊皮紙といって動物・・主に羊等の家畜ですけど、それの皮をなめして作った現地の紙です」
シャマルの問いにユーノは手に持った紙を裏返して見せた。
それはミッドチルダはおろか地球でも滅多に見ないもので、書き心地もあまり良さそうではなかった。

「なんでそんなのに書いてるんだ?」
「遺跡探索等で色々な場所に行くと思わぬ危険に会うことも多いんだ。
 そして荷物をなくしてしまうこともある。
そしてその荷物が現地の住民に見つかっても
オーバーテクノロジーとなって、文明を狂わせない様に極力現地の物資を使うこと。というのが、スクライア一族の決まりのひとつなんです」

「手間はかかるが、意味は判るな」
感心し頷くヴィータ。
「ええ。ということは、その革・・羊皮紙が使われる位というのがこの世界の文明レベルなのかしら?」
「そうです。なのはや、はやての世界で言う中世、ヨーロッパなどに近いようですね」
ユーノはシャマルに羊皮紙を手渡しながら答える。

『なるほど』       
ヴォルケンリッター達は、「はやての世界」ということで地球の歴史についても学んでいる。
その為、ユーノの出したイメージである程度理解したようだ。

「えっと、それでですね、この世界の文明レベルは中世くらい。
ですがある程度魔法についても認識しています。
只、それは天候を占うとか、豊作を祈願するといったレベルなので、
あまり派手な魔法は控えるようにして下さい」

「りょーかい」
ヴィータは空を見上げながら答えた。
見上げた空は澄み渡っている。
確かに文明が発達すれば自然に何かしらの影響がある
だが空気が汚染されている様子も無く、むやみに木々が伐採されている様でもない。
森、といういより樹海に近い雰囲気の中を進みながらヴィータはそんなことを考えていた。

               ○               ○

「今向かっているのは、小さな集落、住人は100人程。
 ですがかつて、管理局から保護されています」
「どういうことだ?」
先頭に立ち道案内をしていたユーノが歩みを遅くしながら話し始めた。
その様子にヴィータとシャマルも歩速を落とす。

「・・ある次元犯罪者が村の側の洞窟に隠れ潜んだんです。
 そして文明レベルの違いを利用し、村を支配・・いえ実験場にしようとしました」
「・・・まさか」

シャマルの呟きにユーノは頷き答えた。

「ええ、ジェイル・スカリエッティです。
といっても彼にとって、ここは数百とあるダミーの一つに過ぎなかった様です。
ですから村人に危害が及ぶことなどありませんでした。」
それを聞きホっと息を吐くシャマル。
だがヴィータはユーノの話し方に嫌なモノを感じ取り表情を崩さず続きを待った。

「でも、それを利用したやつが居ました。
 そいつはスカリエッティの隠れ家を偶然見つけ、そこを利用しだしたんです。
本人の魔力資質は微々たる物でしたが、スカリエッティの隠れ家にあった様々なものを使い
そいつはまるで支配者のように振舞っていました」
「な?そんなことを!」
シャマルの声に頷きユーノは更に続ける。

「ダミーとはいえ、元は管理局の追跡をかわすために作られただけあって、
その施設の性能は下手な実験施設を上回ったから。」
確かに彼、ジェイル・スカリエッティが必要とした設備なら、並のものでは間に合わないだろう。
半ば狂気じみた物があったとはいえその頭脳は管理局をも上回ったのだから。

「けれど、そいつは派手にやり過ぎ、そして執務官に捕らえられました。」
「もしかしてそれは・・」
「ええ。フェイトです。
彼女が教えてくれたんです。隠れ家から外れた所に、数百年前から伝わる伝承とか、それに纏わる場所があるって。現地で保護した少女からそんな話を聞いたって」
「伝承?」
ユーノは頷くと、立ち止まり荷物を下ろした。
二人も向き合うようにして立ち止まる。

「その村に古くから伝わるらしく[生贄を捧げれば森の化身が圧政者を倒してくれる]
そういった御伽噺にも似たものなのですけれど。」
「なるほど。まあ良くあるといえば良くあるよな」
「そうね」
ヴィータの言葉にシャマルも相槌を打つ。
「ええ。割とどこにでもある話しです。でも、ここでは本当だった」
「なに?」

「生贄・・神に認められた素質をもつ子供を生贄にすれば森の化身が助けに来てくれる」
ユーノの言葉にヴィータは直ぐに気がついた

「アレか!」

そうコアイーターのことである
恐らくコアイーターはこの星にも落とされたのだろう。
民衆に都合の良い言い伝えと共に。
古代に支配していたベルカに対抗する為に。

いつの時代でも民衆の中には支配層に抵抗する勢力が生まれることがある。
そして言い伝えや伝説などがあればそれにすがる事も多いのだから。
コアイーターの謂れと年代、そういうのを考えれば
その伝承の「生贄を捧げれば森の化身が圧政者を倒してくれる」というのは
まさにそのことだろう。

「そう。確かにその「モノ」は存在していた」

ユーノは茂みを掻き分けその先を示す。
ヴィータとシャマルも視線を向けるそのずっと先に、静かに佇む家々が見えた。

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