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2008年5月

2008年5月27日 (火)

長編SS 23 

「男同士の話し合いは終わり?」
「ああ」
リビングへと戻った二人にはやてが声を書ける
クロノは何気なく返事をしながら、自分たちを見つめる妙な視線に気がついた

「・・・どうかしたのか?はやて?」
「ううんなんにもあらへんよ?」
そう言いながらもはやてが目配せすると
シャマル、エイミィはなにやらヒソヒソと小声で耳打ちしあい、シグナムはそっぽを向く。
女性陣全員の頬が妙に赤いのは気のせいだろうか?

「・・・・」

部屋に訪れる妙な沈黙。

「あ~・・」
「なんか妙な感じがするんだけど・・?」
クロノとユーノはなんだか妙な空気を感じ、それを崩そうとした、
その時ガチャとリビングのドアを開け、リンディが入ってくる

「ごめんなさい、今戻ったわ」
リンディはそう言いながら周りを見回す
「どうしたの?」
リンディはその鋭い洞察力から場の空気をおかしさを察するが・・・
流石の統括官でもわからないものはある。

「いえ、なんでもないです」
「そうなの?」
「ええ」
クロノとユーノはここぞとばかりに話題を元に戻し、説明を開始する

「資料は全て読んでもらったと思う。
 細かい説明はこれからおこなうが、
先ず言えるのは時間がない事と、この先・・どんなことになるか全く予測がつかなくなるということ」

クロノはそこまで言うと、細かい説明を行うようユーノを促す
ユーノは頷き、まわりを見回すと説明を始める

「まずは1つ目は、なのはに取り付いているコアイーターへの身代わりにあてる為のジュエルシードの確保。
 2つ目はその術式を行う為の場所の確保。
そして念の為の・・・リンカーコアの移植準備。
 これはコアイーターの剥離に失敗した場合、恐らくなのはのコアは取り込まれてしまうだろう。
 その時にフェイトのコアを分け与える必要があるからなんだ。」

「そんな事して平気なの?」
思わずエイミィが質問をする
それは誰もが普通に思う疑問である
リンカーコアははそれぞれが生まれ持つ資質であり、いわば臓器と同じである
その為それぞれ個人で資質や性質が異なるのである
それを移植しようというのは
いくら技術力は地球と比べ物にならない程発展したミッドチルダにおいても
困難な事に違いは無い。

だがエイミィの質問にはもう一つの意味が込められていた
それは分け与える側、つまりフェイトの状態についてである。

ユーノはその言葉に込められた意味を理解すると、一度頷き説明を続ける

「これは殆どがはやてがリインフォースⅡを生み出した時と同じになります
 フェイトの魔力を、レイジングハートに記録されているなのはの魔力パターンに波長を合わせ
リンカーコアの一部と共になのはに分ける。」

「無茶苦茶だな・・」
クロノは説明を聞きながら呟く
「うん。無茶だと思う。それに成功の可能性はとても低い」
「低いって・・・どれくらい?」
はやての問いにユーノは淡々と答える
「恐らく2割以下」
「そんな・・・」

「これは生体間の魔力移植だから、本人たちがいくら望んだとしても・・・拒否反応がでればどうしようもない」

それは人体が持つ防衛反応故の事。
いくら本人が受け入れようと望もうと
自分以外の魔力を体内にいれるのを身体が拒否するのは、意志とは関係ない
下手をすれば入れる魔力と受け入れる側、どちらかが取り込まれ乗っ取られる可能性もあるからだ。

「勿論これは最終手段であって
ジュエルシードの充填のみで無事に引き剥がせる可能性も0じゃない。
ただ、どのような事が起きるか判らないから、その時の最終手段でもある」

「それに・・・」
そこで一度ユーノは言葉を途切る
この先の説明は不要かもしれないし、ユーノとしてもしたくは無い
なによりフェイトを、そしてフェイトの家族、リンディ、クロノ、エイミィを傷つけるかもしれないから。

けれどこれは、この説明は自分がやらねばならない。
たとえ嫌われようと、傷つけようとも
今はなのはを、そしてフェイトと皆の笑顔を取り戻したい

その為にみんなここに居るのだから。
この事を説明しない事で余計な疑問や不安が残り
失敗につながったりしたら、悔いても悔やみきれない事になる。

覚悟を決めるとユーノは顔をあげ、しっかりとした口調で話を続ける。

「それにこの事に関してはフェイトが一番・・・適任なんだ。魔力総量もSクラスで問題は無い。
そして・・フェイトの素質。
つまり生まれと、受け継いだ大魔導師プレシア・テスタロッサの素質からもいえる」

「ユー・・・」
ユーノのその言葉に、思わず荒い口調で問い詰めそうになるクロノだったが
ユーノの手がきつく、血が滲みそうなほどに握り締められているのに気がついた

そう、ユーノはフェイトの過去を穿り返して楽しむような奴ではない。
なのにこの場であえてそのことに触れるのは
それが必要な、決して避けては通れないことだからだ。
それを瞬時に理解するとクロノもきつく拳を握り締めた。

「つまり・・・」
「ええよ」
ユーノが言おうとした続きを聞かず、はやてはそれを止めた。
「はやて?」
「つまりはこの中で一番フェイトちゃんが適任で、全ての鍵はフェイトちゃんにあるって事やろ?」
「うん」
はやての問いかけに頷くユーノ。
かなり大雑把ではあるがその意味に間違いは無い。

「ならそれで十分や」
そういうとはやてはにっこりと微笑む。
その表情ではやての思いはこの場の全員に十分伝わった

リンディ、クロノ、ユーノ達はフェイトの生まれやその後のプレシアとの事を全て知っている
けれど、はやて達はそこまでの詳細な事情は知らない

ただフェイトがつくられて生まれたという事はフェイト自身から聞いていた。
でもそれを知ったところで、はやて達のフェイトに対する認識が変わった事など一度も無い。
だからこそ今回もそれは関係なかった。

「わかった」
ユーノもはやての、その想いを理解すると言い直す

「このなかで一番の適任はフェイトだ。
 なのはに対する想いの大きさ、強さ、
そしてなのはからのフェイトへの想い。・・・そういったのを全部合わせて・・・ね」

「了解や」
はやてを始め全員が満足げに頷く
先程、ユーノのなのはに対する気持ちを知ってしまったクロノだけは少しだけ考えたが
ユーノの表情に一切の迷いが無いのを見て取ると、その事は心の奥に仕舞う事にした。

同時にこんな理由で納得してしまう自分に少しだけ呆れる。
理論では、頭では拒絶反応は本人たちの意思や想いなんて関係ないと十分に知って、理解しているのに
あの二人ならばそんな事はない。と思えてしまう自分に。

「ではジュエルシードの捜索についてだが」
「それに行くのは私らや」
クロノが言うとすぐにはやてが名乗りを上げる。

「私らには、誰にも無い私らだけが出来る事がある」

それは蒐集行使。
数多の魔導師がその身を置く時空管理局においても
はやてのみが持つ特殊スキル

「でもそれは・・・」
クロノは言いかける
確かに自分やユーノはこの先どのような事態になるか判らない
ただそれでも、二人の今の地位から考えると最悪免職程度でどうにかなる可能性も高い。
だが、はやては以前の闇の書の事件の当事者でもあり
ヴォルケンリッター達は直接の加害者でもある

勿論それは闇の書というプログラムから起きたことであり
現在のはやて達が直接関与したわけではないが
未だにその事を根に持っているのもたちが多いのも事実ではある

ただそれは身内を殺された遺族達や、
また直接被害にあった者からすれば、当然といわれても否定できない事でもある

つまりはやてとヴォルケンリッター達は何か問題や失態を起こせば
槍玉に挙げられる可能性が一番高いのだ。
「はやて」
「わかっとる。私らの立場も、周りの目も。
・・でもそれは私らがちゃんと受け止めていかなければいけないことや」
はやては言いながら最愛の家族を見回す

「それにな。私は嬉しいんや・・かっては管理局に、人々に恐れられ、傷つけてしまった魔法の力。
 だけど今は違う。
誰でもなく、私たちを助けてくれたなのはちゃん、フェイトちゃんを助ける為にこの力がある。
 そのことが嬉しいんや」

はやてがそう言うと、シグナム、シャマルも頷く
主の想いに従うことに何一つ不満など無く
そして主は自分たちの思いを全て汲み取ってくれる
そのことに例え様も無い幸せと、嬉しさを感じながら。

「じゃあジュエルシードについてだけど」
ユーノが詳しく説明しようと口を開いた。
その時ーーー

「ヴィータ?!」
突然はやてが声を上げる

「主?!」
「はやてちゃん?!」
それはヴォルケンリッターのヴィータが主であるはやてに送る緊急の念話だった。

それは管理局などの監視に掛かることはないが
魔力をそれなりに消費するので滅多に使うことが無い手段。

「はやて!なのはが大変なんだ!」
その言葉からはやては瞬時に念話の回線をここにいる全員へと繋ぐ

「なのはが消えちまいそうなんだ!」

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2008年5月13日 (火)

長編SS 22 

フェイトがヴィヴィオと再開している頃
クロノの自宅のリビングは臨時で会議室となっていた。

今ここにいるのは管理局のエース達といって良いメンバーばかり。
リンディはヴィヴィオを送りにいっているのでまだ帰ってきてはいないが。

クロノ、はやて、エイミィ、ユーノ。
それに遅れて到着したヴォルケンリッターのシャマルとシグナムの総勢6人
同じヴォルケンリッターのリインとヴィータ、それにザフィーラは来ていない。
3人が来ていないのには理由があった
いくらなんでも、この状況でこのメンバーが全員集まるのは目立ちすぎる為である。

勤務が終わればどこに居ようと、基本的には個人の自由ではあるが、
今回の件の事を考えれば、何らかのマークがついている可能性は否定できない。
短時間であればフェイトの見舞いなどの名目でどうにかなるだろうが
クロノは謹慎中である
そう考えればどこに監視の眼があるか判らないのも確かである。

皆、管理局の仕事に誇りをもって勤めているが
今回のなのはへの対応に関しては
背後に上層部の利害と派閥争いを感じはじめていた。

JS事件での地上本部の崩壊以降
空の、次元航行隊の発言力は以前よりはるかに強くなっており、
そして管理局で最も有名になったエースオブエース。

機動六課のメンバーはJS事件の後解散しそれぞれの職場へ戻っていったが
個人個人がそれぞれ強いつながりは残っている。

そしてなのはとフェイトの部下であった
スバル、ティアナ、キャロ、エリオの四人は時期エースとの評価も高い
ロングアーチのグリフィス、アルト、ヴァイス、シャリオも同じである。

つまり現在の管理局で最も実力、人望、人脈が有る者達は全て
なのは、フェイト、はやての3人の影響下にある。
そう上層部の一部は判断したのである。

権力にしがみついている者はどんな時代にも、
どのような所であっても、組織があれば必ず存在する。
それは管理局といえど例外ではない。

口には出す事は無かったが
その上層部に近い地位にいるリンディ、クロノは特にそれ感じていた。

 
         ○              ○

「クロノ」
「なんだ?」
皆が真剣に資料を読んでいる中、ユーノが小声でクロノに声を掛ける。

今回の資料はユーノが作ったのでユーノは熟知しているし
出来上がった資料は一番にクロノにまわされたので、クロノもすでに完全に頭に入っていた。
故に皆がその資料を読んでいるあいだ二人は僅かだが暇になる

ユーノは手でベランダを示す
クロノは直ぐにその仕草の意味を理解し、静かにベランダへと移動した

「いいのかい?」
クロノがベランダへ出てガラス戸を閉じると、ユーノは振り返りそう問いかけた。

主語も何も無いが、それでもユーノの言いたい事はわかる
ユーノが言っているのは、今回の事は管理局の決定に違反しかねないという事。
つまり上層部との対立や
流れ次第では今の身分なども失いかねないという事だった。
ましてや上層部の権力争いが絡んできた場合
この中でもっとも眼を付けられる可能性が高いのはクロノである。
30歳前にして執務官兼艦長。
そしてオーバーSの歴戦魔導師。
権力にしがみつく上層部にしてみれば、もっとも警戒するであろう人材である。

「迷いは無いさ」
クロノは振り返り、今もリビングで資料を真剣に読いる面々を見ながら答えた。

ここに居る全員は誰一人出世や、名誉などは望んでいない。
今は只なのはを、そしてフェイトを助けたいが為に動いている。

クロノは執務官であり、まして時空航行艦の艦長である。
後の事を考えれば慎重に、
そして保身を考えれば管理局の言われるままに従うべきだとは十分に判っている。
けれど。

そう、どんなに考えても「けれど」と思う自分がいる。

ならば自分の信じるままに動こう。

「お前こそ、いいのか?」
クロノはユーノに問いかけた
それはクロノなリの配慮。
ユーノはいまや著名な歴史学者でもあり、
今の無限書庫司書長というのはユーノにとって天職である。
いわば子供の頃からの夢でもあった仕事だ。
今回の事に、しかも作戦の根幹に関わったとなれば場合によっては免職すらありえる。

「いいんだ」
ユーノはベランダの手すりに寄りかかると迷い無く答えた。

「僕はまだ一人身だしね。一人ならまた発掘に戻ってもやっていける」

「それに・・」
ユーノはそのまま夜空を見上げた
雨は既に止み、雲は残っていたが切れ間に月も見え始めていた。

「なのはは僕にとって星なんだ」
「星?」
クロノも同じように夜空を見上げながら問い返す
「そう、星。何処に居ても見上げれば思い出せて・・・けれど絶対に手に入れられない。」

「太陽とかじゃないのか?」
クロノは聞き返す
フェイトが昔、なのはをそう表現していたのを思い出して。

『その人は私にとって太陽なんだ。どんな時でも支えてくれて、道を照らしてくれる、お日様みたいな人』

フェイトがエイミィに嬉しそうに話しているのを偶然聞いた時
クロノは義兄として少し、色々考えたものである。
その時はその相手がなのはだとと思っておらず「どこの男だ?」と思ったものだが。

なのはの事だとわかった後も少し考えはしたが
本人たちが何より望んでいたのと
なのはならばその辺の男などより遥かに信用できると安心したのも
今では良い思い出ではある。

 
「星・・だね。空を見上げれば欲しいと思ってしまう。けれど・・
 側に居なくても、輝いて、無事で居てくれると判れば、それで僕は満足できてしまう。
勿論いつまでも輝いて、笑顔で居て欲しいと願っているけれどね」

ユーノは雲の切れ間に、
見えないけれど、そこある星を探すかのように見つめ続ける。

「なのはが一番輝いているのはフェイトと居る時なんだ。なら・・・僕はそれで満足さ」
「そうか・・・」

それはユーノなりの愛し方
側にいて一緒に生きていく愛し方ではない。
見守り、そして相手に気が付かれなくても後悔しない

・・・そんな愛し方

「だから僕はだいじょうぶ」
「わかった」

それは覚悟
「大丈夫」その言葉に全てをこめ、そして受け止める。
家族を、大切な人を守るためなら
幾らでも傷つこうと倒れたりはしない。

たいせつなものとその笑顔。
それが守れるなら
例え一時だろうと笑顔になってくれるなら
自分はどんなに傷つこうと、苦しい目にあおうと歯を食いしばって耐えてみせる。
華やかな舞台も、称える賞賛も、慰めの声も必要ない。

傷だらけで泥にまみれたって、
その先に、守りたいものと、その笑顔さえあれば。 それだけでいい。

「損な役回りだな」
「男なんてそんなもんさ」
「違いない」

気がつくとリビングから皆がこちらを見ている
もう目を通し終わったらしい。
ならばここからは全てが一気に進むだろう

ユーノの言葉にクロノは頷き、手を握り締めると拳を作り軽く掲げる
ユーノもそれに答え同じく拳を握り締める。

そしてお互い拳をぶつけ合う

「そんな生き方だって・・・悪くない」
「ああ」

そいう言い二人は並んでリビングへと戻った。

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