長編SS 23
「男同士の話し合いは終わり?」
「ああ」
リビングへと戻った二人にはやてが声を書ける
クロノは何気なく返事をしながら、自分たちを見つめる妙な視線に気がついた
「・・・どうかしたのか?はやて?」
「ううんなんにもあらへんよ?」
そう言いながらもはやてが目配せすると
シャマル、エイミィはなにやらヒソヒソと小声で耳打ちしあい、シグナムはそっぽを向く。
女性陣全員の頬が妙に赤いのは気のせいだろうか?
「・・・・」
部屋に訪れる妙な沈黙。
「あ~・・」
「なんか妙な感じがするんだけど・・?」
クロノとユーノはなんだか妙な空気を感じ、それを崩そうとした、
その時ガチャとリビングのドアを開け、リンディが入ってくる
「ごめんなさい、今戻ったわ」
リンディはそう言いながら周りを見回す
「どうしたの?」
リンディはその鋭い洞察力から場の空気をおかしさを察するが・・・
流石の統括官でもわからないものはある。
「いえ、なんでもないです」
「そうなの?」
「ええ」
クロノとユーノはここぞとばかりに話題を元に戻し、説明を開始する
「資料は全て読んでもらったと思う。
細かい説明はこれからおこなうが、
先ず言えるのは時間がない事と、この先・・どんなことになるか全く予測がつかなくなるということ」
クロノはそこまで言うと、細かい説明を行うようユーノを促す
ユーノは頷き、まわりを見回すと説明を始める
「まずは1つ目は、なのはに取り付いているコアイーターへの身代わりにあてる為のジュエルシードの確保。
2つ目はその術式を行う為の場所の確保。
そして念の為の・・・リンカーコアの移植準備。
これはコアイーターの剥離に失敗した場合、恐らくなのはのコアは取り込まれてしまうだろう。
その時にフェイトのコアを分け与える必要があるからなんだ。」
「そんな事して平気なの?」
思わずエイミィが質問をする
それは誰もが普通に思う疑問である
リンカーコアははそれぞれが生まれ持つ資質であり、いわば臓器と同じである
その為それぞれ個人で資質や性質が異なるのである
それを移植しようというのは
いくら技術力は地球と比べ物にならない程発展したミッドチルダにおいても
困難な事に違いは無い。
だがエイミィの質問にはもう一つの意味が込められていた
それは分け与える側、つまりフェイトの状態についてである。
ユーノはその言葉に込められた意味を理解すると、一度頷き説明を続ける
「これは殆どがはやてがリインフォースⅡを生み出した時と同じになります
フェイトの魔力を、レイジングハートに記録されているなのはの魔力パターンに波長を合わせ
リンカーコアの一部と共になのはに分ける。」
「無茶苦茶だな・・」
クロノは説明を聞きながら呟く
「うん。無茶だと思う。それに成功の可能性はとても低い」
「低いって・・・どれくらい?」
はやての問いにユーノは淡々と答える
「恐らく2割以下」
「そんな・・・」
「これは生体間の魔力移植だから、本人たちがいくら望んだとしても・・・拒否反応がでればどうしようもない」
それは人体が持つ防衛反応故の事。
いくら本人が受け入れようと望もうと
自分以外の魔力を体内にいれるのを身体が拒否するのは、意志とは関係ない
下手をすれば入れる魔力と受け入れる側、どちらかが取り込まれ乗っ取られる可能性もあるからだ。
「勿論これは最終手段であって
ジュエルシードの充填のみで無事に引き剥がせる可能性も0じゃない。
ただ、どのような事が起きるか判らないから、その時の最終手段でもある」
「それに・・・」
そこで一度ユーノは言葉を途切る
この先の説明は不要かもしれないし、ユーノとしてもしたくは無い
なによりフェイトを、そしてフェイトの家族、リンディ、クロノ、エイミィを傷つけるかもしれないから。
けれどこれは、この説明は自分がやらねばならない。
たとえ嫌われようと、傷つけようとも
今はなのはを、そしてフェイトと皆の笑顔を取り戻したい
その為にみんなここに居るのだから。
この事を説明しない事で余計な疑問や不安が残り
失敗につながったりしたら、悔いても悔やみきれない事になる。
覚悟を決めるとユーノは顔をあげ、しっかりとした口調で話を続ける。
「それにこの事に関してはフェイトが一番・・・適任なんだ。魔力総量もSクラスで問題は無い。
そして・・フェイトの素質。
つまり生まれと、受け継いだ大魔導師プレシア・テスタロッサの素質からもいえる」
「ユー・・・」
ユーノのその言葉に、思わず荒い口調で問い詰めそうになるクロノだったが
ユーノの手がきつく、血が滲みそうなほどに握り締められているのに気がついた
そう、ユーノはフェイトの過去を穿り返して楽しむような奴ではない。
なのにこの場であえてそのことに触れるのは
それが必要な、決して避けては通れないことだからだ。
それを瞬時に理解するとクロノもきつく拳を握り締めた。
「つまり・・・」
「ええよ」
ユーノが言おうとした続きを聞かず、はやてはそれを止めた。
「はやて?」
「つまりはこの中で一番フェイトちゃんが適任で、全ての鍵はフェイトちゃんにあるって事やろ?」
「うん」
はやての問いかけに頷くユーノ。
かなり大雑把ではあるがその意味に間違いは無い。
「ならそれで十分や」
そういうとはやてはにっこりと微笑む。
その表情ではやての思いはこの場の全員に十分伝わった
リンディ、クロノ、ユーノ達はフェイトの生まれやその後のプレシアとの事を全て知っている
けれど、はやて達はそこまでの詳細な事情は知らない
ただフェイトがつくられて生まれたという事はフェイト自身から聞いていた。
でもそれを知ったところで、はやて達のフェイトに対する認識が変わった事など一度も無い。
だからこそ今回もそれは関係なかった。
「わかった」
ユーノもはやての、その想いを理解すると言い直す
「このなかで一番の適任はフェイトだ。
なのはに対する想いの大きさ、強さ、
そしてなのはからのフェイトへの想い。・・・そういったのを全部合わせて・・・ね」
「了解や」
はやてを始め全員が満足げに頷く
先程、ユーノのなのはに対する気持ちを知ってしまったクロノだけは少しだけ考えたが
ユーノの表情に一切の迷いが無いのを見て取ると、その事は心の奥に仕舞う事にした。
同時にこんな理由で納得してしまう自分に少しだけ呆れる。
理論では、頭では拒絶反応は本人たちの意思や想いなんて関係ないと十分に知って、理解しているのに
あの二人ならばそんな事はない。と思えてしまう自分に。
「ではジュエルシードの捜索についてだが」
「それに行くのは私らや」
クロノが言うとすぐにはやてが名乗りを上げる。
「私らには、誰にも無い私らだけが出来る事がある」
それは蒐集行使。
数多の魔導師がその身を置く時空管理局においても
はやてのみが持つ特殊スキル
「でもそれは・・・」
クロノは言いかける
確かに自分やユーノはこの先どのような事態になるか判らない
ただそれでも、二人の今の地位から考えると最悪免職程度でどうにかなる可能性も高い。
だが、はやては以前の闇の書の事件の当事者でもあり
ヴォルケンリッター達は直接の加害者でもある
勿論それは闇の書というプログラムから起きたことであり
現在のはやて達が直接関与したわけではないが
未だにその事を根に持っているのもたちが多いのも事実ではある
ただそれは身内を殺された遺族達や、
また直接被害にあった者からすれば、当然といわれても否定できない事でもある
つまりはやてとヴォルケンリッター達は何か問題や失態を起こせば
槍玉に挙げられる可能性が一番高いのだ。
「はやて」
「わかっとる。私らの立場も、周りの目も。
・・でもそれは私らがちゃんと受け止めていかなければいけないことや」
はやては言いながら最愛の家族を見回す
「それにな。私は嬉しいんや・・かっては管理局に、人々に恐れられ、傷つけてしまった魔法の力。
だけど今は違う。
誰でもなく、私たちを助けてくれたなのはちゃん、フェイトちゃんを助ける為にこの力がある。
そのことが嬉しいんや」
はやてがそう言うと、シグナム、シャマルも頷く
主の想いに従うことに何一つ不満など無く
そして主は自分たちの思いを全て汲み取ってくれる
そのことに例え様も無い幸せと、嬉しさを感じながら。
「じゃあジュエルシードについてだけど」
ユーノが詳しく説明しようと口を開いた。
その時ーーー
「ヴィータ?!」
突然はやてが声を上げる
「主?!」
「はやてちゃん?!」
それはヴォルケンリッターのヴィータが主であるはやてに送る緊急の念話だった。
それは管理局などの監視に掛かることはないが
魔力をそれなりに消費するので滅多に使うことが無い手段。
「はやて!なのはが大変なんだ!」
その言葉からはやては瞬時に念話の回線をここにいる全員へと繋ぐ
「なのはが消えちまいそうなんだ!」
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