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2008年11月 4日 (火)

長編SS 25

「どこか良い場所があればいいのだけれど・・」

「これだけの術式を行うのだと、相応の施設が必要になるからな。中々無いな」

はやてとヴォルケンリッターの面々がユーノと共に本局へ向かった後、

リンディとクロノ、エイミィはそのまま残り管理局の施設データを見ながら考えていた。

リンディ、クロノの二人は提督、執務官という高い地位にいるので

個人の権限で施設の使用許可を出すことが出来る。

だが今回の作戦は管理局の決定に刃向かう事になり、

その上、使用される魔術式が桁違いの規模になるのだ。

それに耐えうる施設といえば第一級管理施設、もしくは戦艦レベルになってしまう。

そのような施設はいくらなんでもクロノやリンディ個人で許可が出せるレベルではない。

それでもまずリンディの役職で許可が下ろせる施設のなかで

最も向いているものを探し出していた。

それはリンディがこの中で最も役職位が高く

その分、個人で使用許可を出せる範囲が大きい為だ。

勿論そんなことをすれば必ず何らかの処罰が下される

場合によっては免職すらありうるだろう。

けれどリンディはそのことに関して何も言わなかった。

クロノもエイミィも、リンディが何も言わない理由を判っているからこそ、何も口出しはしなかった。

     ○           ○

「エイミィ・・なんだこれは?」

端末を操作していたクロノが顔を上げエイミィに声を掛ける。

「ん?なにが?」

「この〈アースラ送別会案内〉っていうのは」

それはクロノ宛に届いていたメール。

仕事以外のメールだったので確認が遅れたのだ。

「あ~・・それはねアースラの送別会の件のだよ。私も手伝う事になってたからさ」

「ああ・・あれか」

エイミィの返事にクロノも思い出した。

久しぶりに皆で集まった時に、アースラの送別会をしようと話していたことを。

思い起こせば、あの時はまだみんな揃って笑いあっていたのだ。

それがほんの僅かな間にこんな事態になってしまっている。

あの時の、あの笑いあっていた時そのものがまるで遠い昔にすら感じてしまう。

(いやまたすぐに戻れる。戻るんだ。)

クロノは軽く頭を振ると思考を戻す。

「アースラか・・」

「そっか!アースラを使えば良いんだ!」

クロノが漏らした呟きに、エイミィがパン!と手を胸の前で打ち合わせながら声をあげた。

「なに?」

「エイミィさん?」」

リンディとクロノはエイミィの発言に顔を見合わせた。

「アースラ級の設備なら問題なくいけるよ!」

エイミィは興奮した様子でモニターを操作し、アースラのスペックを表示する。

そこに表示されたデータを見れば判るとおり、アースラは未だ十分な性能を有している。

アースラは現行の艦船に比べれば旧い型ではある。

だがその設備自体は十分に機能する。

事実、先のJ・S事件の際も問題なく運行できたし、

その時の整備のお陰で今も稼動可能である。

解体命令こそ出てはいるが、

通常はあれだけの艦船になると、艦内の動力を使い内部を解体してから

最後に動力炉を外す為、今なら全く手付かず状態にあるはず。

まして訓練室などは今までの使用経過から、

解体後は廃棄が決定している為、解体の日程は恐らく一番最後になるはずだ。

ならば十分可能なレベルにある。

居住空間などはもう解体されているだろうが、今必要なのは動力炉と

高レベル耐久性をもつ施設だけである。

「・・・それしかないか」

クロノは呟きながら即座に考えを纏める。

送別会という名目で乗り込み、他のクルーたちが宴会を開いている隙に

関係者のみで動力炉と訓練施設、そして艦首を占領。

そして万が一に備え、クラナガンから離れたところで術式を行う

艦首まで占拠するのは

もしコアイーターが暴走しても被害をミッドチルダに及ぼさせない為だ。

クルーは一時的に人質となってもらうことになるだろう。

無論、危害を与えるつもりなど無いし、ある程度離れた時点で即座に開放する。

(まるでクーデターだな)

一瞬でそこまで決めてしまった自分に呆れてしまう。

だがこれしか手段は無いだろう。

決断し顔を上げると、リンディと視線が合った。

何も言わないがリンディも同じ事を考えたらしい。

頷き合うと直に必要な作業に取り掛かる事にした。

そんな二人を見てエイミィもモニターに向き直ると手早く準備にとりかかる。

(・・・はぁ。なんで親子ってだけでこれだけ判りあえるんだろ。少しだけ妬けちゃうな)

少しリンディに嫉妬してしまうエイミィだった。

エイミィも十分に判り合えているのだが、それでも。という奴である。

そんな事を考えつつも手は止めず、表向きは送別会の案内を書き上げていくエイミィを

リンディはやさしい眼差しで見ていた。

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