SS「ある日の午後」
ある日の午後
「ねえフェイトちゃん」
「なに?なのは」
なのはの声に私はモニターから顔を上げる
ここは私たちの部屋のリビング
今日は特に任務もなく、訓練もヴィータたちが見る番なので
私たちは揃って部屋で雑務をこなしていた
「ちょっとお茶にしない?」
なのはの言葉に時計を見ると午後3時を過ぎたところ
「うん。いいね」
「じゃあ準備するから」
「私も手伝うよ」
そういって立ち上がろうとすると
「すぐ済むから待ってて」
なのはに止められてしまう
「んー・・・じゃあお願い」
あと少しでデータが纏まるところだったので、なのはの言葉に甘える事にする
なのははそれを判って言ってくれたのだろうし。
「うん」
なのはは笑顔で頷くとキッチンへ入っていった
私はそれを見送りながら、手早く最後のまとめに入った
ふわっと紅茶の柔らかい香りが届いてくる
仕事等で遅くまで作業している事が多いので、部屋にあるのはコーヒーが殆ど。
私は目を閉じて流れてくる香りをかいでみる
(この香りは翠屋の紅茶かな・・・)
確かなのはは昨日オフで、実家に寄ったからその時に持ってきたのかもしれない
折角なのはが用意してくれてるんだからと、私は一気に仕上げてしまう様、作業ペースを上げた
○ ○
「おまたせー」
「おわったー」
なのはの声と私の声が重なる
「ピッタり?」
「うん。がんばったよ」
なのはに笑顔で答える
「ふふっ・・・お疲れ様」
「ありがと」
「はい。こういうときは甘いものが一番だよー」
なのはがテーブルにティーポットとカップ、そしてシュークリームを並べてくれる
「うん」
そう言ってなのはを見上げると、なのはは翠屋の制服・・・エプロンを着けていた
「あ、そのエプロン」
「うん。翠屋の」
「やっぱり昨日行ってきたんだ?」
「うん。『たまには顔見せに帰ってきなさい。おかーさんは心配なのよ?』・・って言われちゃって」
エプロンを脱いで私の隣に座りながら
桃子さんの真似をして苦笑いを浮かべるなのは
「そうだね。私もアルフや母さんによく言われる」
「それでフェイトちゃんにお土産で紅茶とシュークリーム持ってきたんだ」
「うん。ありがとう」
私は紅茶の入ったカップを手に取ると、香りを楽しむ
「懐かしいね」
「前は良くみんなで集まってたもんね」
小学生から中学の頃、まだなのはと私が本格的に管理局に勤める前は
アリサ、すずか、はやて、なのは、私の5人でよく集まって
翠屋に行くこともあれば、なのはの家に行くことも多かった
そんな時一番飲んでいたのがこの紅茶だった。
なのはも懐かしそうに香りを楽しみながら飲んでいる
するとーーぽす。っとなのはが私の肩に頭を乗せるように寄りかかってきた
「なのは?」
「昨日家に帰ったら、お父さんに少し叱られちゃった・・」
「士郎さんに?」
珍しいと思い聞き返す
士郎さんは温和な人で私は怒っているところは見たことがない。
でも聞いた話では叱る時はちゃんと叱るらしいけれど。
「『顔見せるのが無理でも、たまには電話をするとかしてかあさんを安心させて上げなさい。
なのは、お前も大切な人が出来たから判るだろう?その人が無事に帰ってくるよう待っているのは辛いんだぞ。
特に、何も連絡がないまま待ち続けるっていうのは・・・な』って」
「そっか・・」
「お父さんも昔、結構危ない仕事をして・・お母さんに心配かけてたから余計にわかるみたい」
「・・・・」
なのはのお父さん・・士郎さんは昔ボディーガードの仕事をしていて
かなり危険な事もしていたらしい
そして大怪我をしてから引退して、今は翠屋のマスターをしている
確かにそんな仕事をしていたら
家で待っていた桃子さんはとても心配だったと思う。
「そうだね・・少し判る」
「うん・・」
「私もなのはが私の知らないところで危険な目にあってないか心配だよ」
「私だってそうだよ・・」
なのはは私の肩により深く寄りかかってくる
「今のお仕事・・・六課の事も大好きだけど、翠屋で働くのもいいかな・・・なんて思っちゃった」
「・・・そうだね」
「そうしたらフェイトちゃんも一緒に働いてくれる?」
「え?」
なのはの言葉に思わず聞き返す
「私の知らないところで、フェイトちゃんが危険な目にあってるのはイヤだよ」
「うん・・・」
私は翠屋のエプロンをみながら呟く
私となのは。二人で翠屋みたいなお店を開くのも楽しいだろう
士郎さんと桃子さんのように。
大切な人といつも同じ職場で、
お揃いの制服を着て、
みんなの笑顔を見守りながら。
みんなの笑顔に包まれて。
・・・うん、なのはと一緒ならそんな未来もいい。
執務官の仕事も好きだけど・・・そんな未来も素敵だよね。
「まだまだお互い管理局でやりたいことあるけど・・・なのはと一緒ならそんな生活も幸せだよね」
「フェイトちゃん・・・」
紅茶の香りと、側に寄り添うお互いのぬくもりを感じながら
二人でそんな未来に想いをはせる
そんな緩やかなある日の午後。
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