なのはフェイト長編SS

2010年10月24日 (日)

長編SS 28

「この結界の中なら人目にはつかないから」
ユーノの言葉に3人は村から離れた場所で打ち合わせを始めた。

「じゃあその[コアイーター]は村の奥に在るんだな?」
「うん。奥というか村の奥にある隠し通路のようなものを通った先にある」
「よくスカリエッティ達に見つからなかったものね」
シャマルが感心したように呟く。
「そこは色々有ったようですが、今はとにかく時間が無いので事情は現地で説明します。が」
「が?」

「ちょっとその格好ではマズイのでこちらに着替えてもらえますか?」
そう言ってユーノが取り出したのは、淡い草色のワンピースとカーキ色のジャケットだった。

「これにか?」
受け取りながらヴィータは広げてサイズなどを確認する。
文明の程度などから現代と比べてしまえば劣るものではあるものの
けっして悪いものではない。
ワンピースは手編みらしく僅かだが編み目が不揃いなのが判る。
だがこちらの文明レベルから考えれば十分なものなのだろう。
ジャケットは革製である。

「先ほども言ったとおり、できる限りでこの世界の文明レベルにあわせる必要があるんだ」
ヴィータの声色を不満の表れと感じたのか、少々焦りながら説明するユーノ。
「ヴィータちゃん」
そんなヴィータの態度に注意を入れるシャマル。

「あ。ワリイ。そういうつもりじゃねぇんだ」
ヴィータもそんなつもりは無かった為、素直に謝る。

「とりあえず下にバリアジャケットのインナーなら着られる様な服にしました。
 流石に外装は無理ですが。それを着たら、二人は村に向かって下さい」

「判りました」
「判った。って二人?お前は?」
「僕も準備して向かうよ。でもその・・」
言いずらそうに言葉を濁すユーノ

「なんだ?」
何か問題が有るのかと訝しげにヴィータは視線を向ける

「はぁ~」
ユーノは小さく溜息を吐くと口の中でゴニョゴニョと何かを呟く

「なんだ?聞こえないぞ?」
「い、いや・・」
ヴィータ追求にユーノは焦る表情を浮かべる

「何か問題でも?」
シャマルは、噛み付きそうなヴィータを押し留め問いかけた

「いえ、その・・あの村には僕は入れないんですよ」
「は?」
シャマルとヴィータの目が点になる。

「あの遺跡は女性のみ立ち入りが許されていて、幾ら調査とはいえそれを破る訳にはいかないんです。」
「じゃあどうするんだ?」

「どうにかして合流するので、二人は先に行っていて下さい。
 この腕輪を村長に見せれば、遺跡まで通してくれます」
そういうとユーノはポケットの中から鈍く輝く腕輪を取り出しヴィータに渡した。

「これを見せれば良いんだな?」
「はい。以前一度来た時に、約束の証として受け取りました。
 『これをもっている人物達には調査をさせてくれる』と約束したので」

「判った」
何となく会話の流れに違和感があったが、ユーノがそう言っているのだから信用する他は無い。
ヴィータは素直に腕輪を受け取ると腕に嵌めるが、
直ぐに何かに気がついて外すとシャマルに渡した

「ヴィータちゃん?」
受け取りながら不思議そうに首を傾げるシャマル
「アタシがこんなのしてたら壊しちまうかも知れねえ。シャマルが持っててくれ」

「あ。そうね」
シャマルはヴィータの言葉に納得し腕輪を嵌めた。

サイズは問題ない。
やや小さめであるのだが重量は見た目よりも重く感じた。
銀製かと思ったが違うのかもしれない。

後衛のシャマルには特に気にならないが、
前衛のヴィータには少々気に掛かる重さでもあったのだろう。
(でもそれに気がつけるなら心配は無いわね)

魔力があるなら装備の重量は気にする必要ない。
だがここはコアイーターの関係する場所での探索
もしかしたら魔力を使えない状態での戦闘なども考えられる。
そうなれば己の身体だけが頼りに成ってしまう。
そんな時に、普段付けていないものを身に着けていれば、
思わぬ不覚を取るかもしれない。
それをヴィータは警戒したのだ。

シグナムが居ない今、前衛はヴィータが専門になる。
焦っているように見えるヴィータではあったが
ちゃんと状況を理解し、冷静な部分は冷静であることにシャマルは安心した。

「さて、じゃあ準備をするか」
そう言ってヴィータが声をかけるとユーノも頷いた。

「じゃあ二人はその腕輪を見せて、村の奥、遺跡の中に入って直のところで待っていてください。僕もそこに合流します」

「判った」
「判りました」
「では」
そういうとユーノは自分の荷物を持ち、村とは違う方へと小走りで走っていった。

                ○               ○

「ここか」
十数分後、ヴィータとシャマルは村のすぐ近くまで来ていた。
確かに中世のレベルなのだろう。
家は焼いたレンガが使われているが、一部木や自然石を利用したものも見える。

「誰に話せば良いのかしら?」
シャマルが左手に通した腕輪をみながら呟く。
「とにかく中に入ってみるしかねえんじゃないか」
ヴィータがそう言い歩きだそうとしたときだった。

「ん?」
「え?」
村の奥からこちらに向かってくる人影がみえた。

それは2人の子供だった。

「おねーちゃん達がシャマルさんとヴィータさんだね!」
背の大きいほうの少女。
といってもヴィータより少し小さい。おそらく8歳位だろう。が息を整えながら声を掛けてきた。

「はぁはぁ、はぁ。おばあちゃんに言われて来ました。」
少し遅れて追いついた少女が息を整えると、説明をしてくれた。
こちらは僅かに背が小さい。
顔立ちが良く似ており、姉妹らしい。

「ええ、そうだけど」
「おばあちゃん?」
シャマルが答え、ヴィータが首をかしげた
「おばあちゃんはここの長(おさ)なんだ。で
『女の人が二人来るから迎えにいって来なさい』っていわれたの!」
小さい方の子が元気良く教えてくれる

「そっか。じゃあ案内よろしくね」
『はい!』
シャマルが笑顔で伝えると二人で声を合わせて返事をしてくれた。

○               ○

シャマルとヴィータは二人の少女に先導され村の奥へと進んでいく
小さな村なので、数分で目的地の村長の家に着いた。

家の前には一人の女性が待っていた。
「お待ちしていました。私が村長をしていますフレアと申します。」

シャマルが口を開く前に相手から自己紹介があった
「あ、シャマルです」
「ヴィータです」
二人も慌てて名乗り軽く会釈をする
二人とも「村長」という言葉から年配の、しかも少女たちから「おばあちゃん」と聞いていたので
目の前の女性とは思わなかったのだ。
目の前の女性はどうみても中年、いや見た目では40代にもなっていないだろう。

「お持て成しをしたいところなのですが、かなりお急ぎとのお話を伺っています。どうぞこちらへ」
そういい家の裏手、村のさらに奥へと歩き始めた
フレアの口調と視線から、二人はすでにユーノが話をフレアに伝えていたのが判り、
素直についていく。
迎えに来てくれた少女二人も少し遅れながらも付いてきた。

                 ○       ○

そこは村長の家の裏から細い道進み川を越えた先、滝の目の前だった。

「あの滝の裏手、脇から回り込むことが出来ます。その先でユーノさんがお待ちです」
「え?」
「先に来てるのか?」
「はい。お二人がこられる少し前に。「先に行って準備をしておきます」とのことでした」
「そっか」

「では私たちはここで」
「ええ~」
フレアの言葉に少女二人が不満の声を上げる
「こら。ダメよ」
けれどフレアが軽く注意しただけで二人は大人しくなった
「直ぐにもどってくるから、待っててね」
「はーい」
シャマルが腰を屈め、目の高さをあわせて言うと素直に返事を頷いてくれた。
「そしたら、ユー姉ちゃんも一緒だね」

「え?」

一瞬の空白。

『ゆーねえちゃん?』
シャマルとヴィータの声が重なり、

「うん!ユーノお姉ちゃん」
元気に答える姉妹

「あ、そうですね。お待ちしています」
フレアもポン。と手を合わせ言う。
その姿はどうみても年若い女性にしか見えない。
だが、目を合わせた一瞬でシャマルは確信した。
(知ってて黙ってる)

「そ、そうね。直ぐに戻ってくるわ。さ、行きましょヴィータちゃん」
シャマルはそう言うとヴィータの手を取り有無を言わせず歩き出した。

「お、おいシャマル?」
「さ、行きましょうね」
「お、おい?」

引きずられる。
正確には背中を押されているのだが心情的に引きずられるイメージで
ヴィータはシャマルに連れられ先へと向かうのだった。

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2009年5月18日 (月)

長編SS 27

ヴォルケンリッターの面々はユーノと共にある管理外世界を訪れていた。
面々と言ってもヴィータ、シャマルとユーノの3人だが。

ザフィーラは余りに消耗が激しいので、強制的に休ませた。
シグナム達もあの日以来まとも休んでいないので、
疲労は溜まっているのだが、
それ以上に失われた記憶を強制的に掘り返すというのは、一歩間違えば精神に障害をきたしかねない。
今回ザフィーラはそれを幾日も行ったのだ。
その為、本人は行くつもりであったが皆で強制的に休ませたのだ。
おそらく今はアルフが付き添っているだろう。

守護獣であるザフィーラが居ないとはいえ
このメンバーは探索には適しているといえた。

本来のヴォルケンリッターは
近接前衛で、いざと言うときには単独行動もできるヴィータ。
守護獣として防御に長け、遠距離からの捕縛も可能なザフィーラ。
管理局でも屈指の癒し手、そして支援魔法の優れた使い手のシャマル。
個人でも歴戦の剣士であり且つ、指揮能力を持つシグナム。

本来は主であるはやてを守り、その手足となる守護騎士達だが
個々でも十分すぎる能力を備えている。

平原や空での大規模戦闘だとしても、一個大隊に近い戦力だが
ヴォルケンリッターの真髄は4人が主の下、その手足のように動ける事にある。

そして今回は戦闘ではなく、遺跡探索
遺跡や建物の中などの狭い空間ほどその連携の強さが影響する。
互いの呼吸すら理解しているヴォルケンリッターに敵うものは居ないだろう。
今回はザフィーラが居ないが、
ユーノはザフィーラと並ぶほどの結界魔法の使い手である。
その穴を埋めるには十分だった。

        ○              ○

「この先なのか?」
「うん」

ヴィータの問いにユーノは振り返り答えた。
今3人は森の中にいる。
森と入っても密林ほどではなく、ある程度人の手が入った管理された森である。

勤務以外の移動なので3人は一度ユーノ個人の知り合いの所から
転移ポートを使いこの世界にやってきた。

「それでこの世界はどういった世界なんだ?」
「あ、それはね・・」
ユーノはポケットから古い紙を取り出した
「それは・・・革?」
「ええ、羊皮紙といって動物・・主に羊等の家畜ですけど、それの皮をなめして作った現地の紙です」
シャマルの問いにユーノは手に持った紙を裏返して見せた。
それはミッドチルダはおろか地球でも滅多に見ないもので、書き心地もあまり良さそうではなかった。

「なんでそんなのに書いてるんだ?」
「遺跡探索等で色々な場所に行くと思わぬ危険に会うことも多いんだ。
 そして荷物をなくしてしまうこともある。
そしてその荷物が現地の住民に見つかっても
オーバーテクノロジーとなって、文明を狂わせない様に極力現地の物資を使うこと。というのが、スクライア一族の決まりのひとつなんです」

「手間はかかるが、意味は判るな」
感心し頷くヴィータ。
「ええ。ということは、その革・・羊皮紙が使われる位というのがこの世界の文明レベルなのかしら?」
「そうです。なのはや、はやての世界で言う中世、ヨーロッパなどに近いようですね」
ユーノはシャマルに羊皮紙を手渡しながら答える。

『なるほど』       
ヴォルケンリッター達は、「はやての世界」ということで地球の歴史についても学んでいる。
その為、ユーノの出したイメージである程度理解したようだ。

「えっと、それでですね、この世界の文明レベルは中世くらい。
ですがある程度魔法についても認識しています。
只、それは天候を占うとか、豊作を祈願するといったレベルなので、
あまり派手な魔法は控えるようにして下さい」

「りょーかい」
ヴィータは空を見上げながら答えた。
見上げた空は澄み渡っている。
確かに文明が発達すれば自然に何かしらの影響がある
だが空気が汚染されている様子も無く、むやみに木々が伐採されている様でもない。
森、といういより樹海に近い雰囲気の中を進みながらヴィータはそんなことを考えていた。

               ○               ○

「今向かっているのは、小さな集落、住人は100人程。
 ですがかつて、管理局から保護されています」
「どういうことだ?」
先頭に立ち道案内をしていたユーノが歩みを遅くしながら話し始めた。
その様子にヴィータとシャマルも歩速を落とす。

「・・ある次元犯罪者が村の側の洞窟に隠れ潜んだんです。
 そして文明レベルの違いを利用し、村を支配・・いえ実験場にしようとしました」
「・・・まさか」

シャマルの呟きにユーノは頷き答えた。

「ええ、ジェイル・スカリエッティです。
といっても彼にとって、ここは数百とあるダミーの一つに過ぎなかった様です。
ですから村人に危害が及ぶことなどありませんでした。」
それを聞きホっと息を吐くシャマル。
だがヴィータはユーノの話し方に嫌なモノを感じ取り表情を崩さず続きを待った。

「でも、それを利用したやつが居ました。
 そいつはスカリエッティの隠れ家を偶然見つけ、そこを利用しだしたんです。
本人の魔力資質は微々たる物でしたが、スカリエッティの隠れ家にあった様々なものを使い
そいつはまるで支配者のように振舞っていました」
「な?そんなことを!」
シャマルの声に頷きユーノは更に続ける。

「ダミーとはいえ、元は管理局の追跡をかわすために作られただけあって、
その施設の性能は下手な実験施設を上回ったから。」
確かに彼、ジェイル・スカリエッティが必要とした設備なら、並のものでは間に合わないだろう。
半ば狂気じみた物があったとはいえその頭脳は管理局をも上回ったのだから。

「けれど、そいつは派手にやり過ぎ、そして執務官に捕らえられました。」
「もしかしてそれは・・」
「ええ。フェイトです。
彼女が教えてくれたんです。隠れ家から外れた所に、数百年前から伝わる伝承とか、それに纏わる場所があるって。現地で保護した少女からそんな話を聞いたって」
「伝承?」
ユーノは頷くと、立ち止まり荷物を下ろした。
二人も向き合うようにして立ち止まる。

「その村に古くから伝わるらしく[生贄を捧げれば森の化身が圧政者を倒してくれる]
そういった御伽噺にも似たものなのですけれど。」
「なるほど。まあ良くあるといえば良くあるよな」
「そうね」
ヴィータの言葉にシャマルも相槌を打つ。
「ええ。割とどこにでもある話しです。でも、ここでは本当だった」
「なに?」

「生贄・・神に認められた素質をもつ子供を生贄にすれば森の化身が助けに来てくれる」
ユーノの言葉にヴィータは直ぐに気がついた

「アレか!」

そうコアイーターのことである
恐らくコアイーターはこの星にも落とされたのだろう。
民衆に都合の良い言い伝えと共に。
古代に支配していたベルカに対抗する為に。

いつの時代でも民衆の中には支配層に抵抗する勢力が生まれることがある。
そして言い伝えや伝説などがあればそれにすがる事も多いのだから。
コアイーターの謂れと年代、そういうのを考えれば
その伝承の「生贄を捧げれば森の化身が圧政者を倒してくれる」というのは
まさにそのことだろう。

「そう。確かにその「モノ」は存在していた」

ユーノは茂みを掻き分けその先を示す。
ヴィータとシャマルも視線を向けるそのずっと先に、静かに佇む家々が見えた。

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2009年1月13日 (火)

長編SS 26

「自惚れないことね」
ミゼット・クローベル本局統幕議長のあまりにといえばあまりにもな言葉に、
クロノは思わず何も言えず立ちすくんでしまっていた。

           ○            ○

あの後、クロノとリンディは素早く計画を組み、行動を始めた。

恐らく、いやほぼ確実にこちらの動きは管理局側に知られているだろう。
一応探索にいったユーノとヴォルケンリッターの面々は、所定の手続きを出し休暇を取り付けた。
プライベートならば『何』をしていようと『誰』と一緒に居ようと個人責任である。
それにユーノが「スクライア一族」として普段から遺跡探索に個人の費用で出かけているのは、管理局も承知している。

スクライア一族は遺跡発掘のスペシャリストでもあり、その功績の数々は管理局にも届いている。
故にスクライアの名を持つものは遺跡発掘などにおいて、独立した権限を持っている。
そしてユーノはそのスクライアの中でも「若き天才」と呼ばれるほどの人材である。
管理局無限書庫司書長という肩書きと併せれば、ほぼ全ての遺跡に独自に探索できる権限を持つ。

ユーノは普段そんな肩書きや権限を振りかざすような真似は絶対にしない。
けれど今回は躊躇い無く利用し、ユーノとヴォルケンリッターのみで探索に出発した。

今の状況ならば管理局もこの面々がなのはを救う為に動いているのは十分に判っている。
だがそれが管理局の決定に逆らう事であっても、今はまだ全てを止めさせようとはしないはずである。

管理局にとっても、なのはは大切な人員、エースである。
クロノ達がなのはの救出を成功させれるならば良し。
もし無理だったとしても、
「管理局屈指の精鋭たちですら救出できなかった。だから止む無し」
そう言って世間を納得させる事が出来る。
いずれにせよ管理局に実害がでないならば。
そういった見解のようだ。、
無論管理局としては既に決定したコアイーターの処分を取り消しはしない。
けれど期限までに各個人がなのはを助ける為に動く事は黙認しているらしい。

事務的な対応ではあるが、それが組織なのだとクロノ達も理解はしている。

大勢を救う為に一人が犠牲になる。
それはクロノの父、クライドがかって選んだ道なのだから。

クロノも子を、家族を持つ身になって判った。
たまにしか帰れなくとも、帰宅すれば笑顔で迎えてくれる妻と子。
笑顔で色々な事を話してくれる子供たち。
買い物の帰りに繋いだ手の小ささと暖かさ。
穏やかに眠る子供たちの表情

自分と引き換えになったとしても、それが守れるなら何でもする。
あの笑顔をみれば誰もそう思えるだろう。
けれど。
そう。
けれどその後、残された家族がどんな思いをするかもクロノは知っている。

母に心配をかけまいとして必死で耐えた自分。
そんな幼かった自分を抱きしめ、「泣いていいのよ」そう言って笑顔を浮かべたリンディ。
今思えば、あの時クロノが子供らしく泣いていれば
母も泣けたのではないかと思う。

執務官になってやっとその事を理解し、
その日自ら自分を殴り倒した。

今でも父クライドは尊敬している。
だからこそ父がその死で教えてくれた哀しさを、辛さは断ち切らなければ成らない。
あの時幼すぎた自分の性で苦しめてしまった母に同じ思いをさせない為に。
苦難の生の中、やっと家族を得た義妹フェイトとヴィヴィオ。そしてなのはの為にも。

もうあの哀しみはつくらせない。
それがクロノが執務官になった日に誓った事。

           ○            ○

クロノとリンディはまず自分たちが自由に動けるよう許可を貰いに行く事から始めた。
J・S事件での上層部の崩壊以降、管理体制が不確定な事もある。
その為二人は現在実質的に管理局を統括している一人である、ミゼット・クローベル本局統幕議長に面会を求めた。

クロノはミゼットにコアイーターとなのはへの『処理』の撤回を行動許可をもとめたのだが、
それはその場で却下された。
曰く、
「この件に関しては既に決定済で撤回は無い。それにもうリンディ、クロノ両士官の干渉は認めない。これ以上管理局の執務に影響を出す訳には行かないから」

それが答えだった。
確かになのはの事以降、フェイトは倒れ、クロノは謹慎。
はやてやユーノ、ヴォルケンリッターの面々が執務を代行したとはいえ
ただでさえ人員不足の管理局業務に遅れが出始めていた。

管理局は多次元における治安維持、つまり警察機構である。
身内の事に手間を掛け、犯罪が増加した。など許されるはずも無い。
 
クロノとて判ってはいたが、余りに事務的な物言いに、
つい
「ならば自分たちが退職すればよいのですか?けれどそれは余計人員不足になるのでは?」
と脅迫じみた言葉まで放ってしまった。

だがそれに対してミゼット本局統幕議長が返した言葉は
「自惚れるな」だった。

           ○            ○

「確かに貴女たちはこの管理局においても屈指の魔導師。
その魔力、戦歴、経歴・・全てにおいて文句が無いわ」
ミゼットは未だ睨みつけるようなクロノを一瞥し、その後ろで静かに立っているリンディに視線をあわせながら口をひらいた。

「でもね。何処まで凄かろうと、それはただの個人。
  管理局全体から見たら只の歯車、個でしかないのよ。
管理局は巨大な組織よ。数個の『個』が抜けた程度ではビクともしないわ」

ミゼットの言葉に拳を握るしかできないクロノ。
確かに判っては居る。

「身の程をわきまえたかしら?
ならば早く行きなさい。時間は何より貴重よ。自分に与えられた事はきちんとこなしなさい。
まぁ、この送別会の許可は受けましょう。ただ、時間は定時終了後からとしますが」

それだけ言うとミゼッタは手もとのモニターへと眼を落とす
それはもうこの話はお終いだ。ということ。

「・・・・」
立ち尽くすクロノ
「判りました。では失礼致します」
「かあさ・・!」
「行くわよクロノ」
食い下がろうとしていた矢先、リンディに退室する旨を言われ
腕を捕まれ声を上げるクロノ
だがリンディは構わずクロノの腕を引張り、部屋を出てしまった。

           ○            ○

「クロノ、大人になったと思ったけれど、まだ子供ね」
ドアが閉まるとリンディは仏頂面のままのクロノを見て苦笑を浮かべた。

「・・・どういう意味です?」
リンディのあきれたような視線に、クロノはつい不機嫌な声をだしてしまった。

もう二十歳も過ぎ、二人の子供すらもいる。
それなのに今更、子ども扱いされるとは思わなかった。
まぁリンディとは親子なのだから、立場としては何時までも子ではあるのだが
中身が子供といわれればムッとしてしまう。

そんなクロノの様子をリンディは少し微笑みながら見ていたが、
すぐに表情を引き締めると自分の執務室へと歩き出した。
「さ、直ぐに次の事を進めるわよ」
「・・・ええ」

納得いかないがクロノも表情を戻すとすぐに歩き始める。
なのはやフェイト達に理解のあるミゼッタ統幕議長に協力を得られなかったのは残念だが
普通に考えればクロノ達の方が無茶をして、無理を通そうとしているのだ。
そう考えればこれは当然の結果である。
ただ、あまりにもな言い方に、つい口調が荒れてしまったが。

クロノ自身の謹慎やコアイーターの処理の延期は受け入れられなかったが、
「アースラ送別会」の許可だけは取り付けた。
これで『場』の確保はできた。
後は自分は管理局からマークされているから
大きな動きは出来ないが、他の仲間は十分に信頼できる。
クロノはそう考えリンディとともに執務室へと向かうのだった。

        ○                    ○

「ふぅ・・・」
二人が去った執務室でミゼットは
窓際に立ち外を眺めながら昔を思い出していた。

クロノのあの姿はまるで自分達の若い頃そっくりだ。
三提督などと褒め称えられ、今では管理局の長官になっているが
若い頃は何にでも首を突っ込み、「トラブルメーカー」と言われていた。
それでも自分には譲れない信念があった。

だからこそ。

ミゼットは少しの間目を閉じ物思いにふけった後・・・
席に戻り通信回線を繋いだ。

「お久しぶりね。元気かしら?」

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2008年11月 4日 (火)

長編SS 25

「どこか良い場所があればいいのだけれど・・」

「これだけの術式を行うのだと、相応の施設が必要になるからな。中々無いな」

はやてとヴォルケンリッターの面々がユーノと共に本局へ向かった後、

リンディとクロノ、エイミィはそのまま残り管理局の施設データを見ながら考えていた。

リンディ、クロノの二人は提督、執務官という高い地位にいるので

個人の権限で施設の使用許可を出すことが出来る。

だが今回の作戦は管理局の決定に刃向かう事になり、

その上、使用される魔術式が桁違いの規模になるのだ。

それに耐えうる施設といえば第一級管理施設、もしくは戦艦レベルになってしまう。

そのような施設はいくらなんでもクロノやリンディ個人で許可が出せるレベルではない。

それでもまずリンディの役職で許可が下ろせる施設のなかで

最も向いているものを探し出していた。

それはリンディがこの中で最も役職位が高く

その分、個人で使用許可を出せる範囲が大きい為だ。

勿論そんなことをすれば必ず何らかの処罰が下される

場合によっては免職すらありうるだろう。

けれどリンディはそのことに関して何も言わなかった。

クロノもエイミィも、リンディが何も言わない理由を判っているからこそ、何も口出しはしなかった。

     ○           ○

「エイミィ・・なんだこれは?」

端末を操作していたクロノが顔を上げエイミィに声を掛ける。

「ん?なにが?」

「この〈アースラ送別会案内〉っていうのは」

それはクロノ宛に届いていたメール。

仕事以外のメールだったので確認が遅れたのだ。

「あ~・・それはねアースラの送別会の件のだよ。私も手伝う事になってたからさ」

「ああ・・あれか」

エイミィの返事にクロノも思い出した。

久しぶりに皆で集まった時に、アースラの送別会をしようと話していたことを。

思い起こせば、あの時はまだみんな揃って笑いあっていたのだ。

それがほんの僅かな間にこんな事態になってしまっている。

あの時の、あの笑いあっていた時そのものがまるで遠い昔にすら感じてしまう。

(いやまたすぐに戻れる。戻るんだ。)

クロノは軽く頭を振ると思考を戻す。

「アースラか・・」

「そっか!アースラを使えば良いんだ!」

クロノが漏らした呟きに、エイミィがパン!と手を胸の前で打ち合わせながら声をあげた。

「なに?」

「エイミィさん?」」

リンディとクロノはエイミィの発言に顔を見合わせた。

「アースラ級の設備なら問題なくいけるよ!」

エイミィは興奮した様子でモニターを操作し、アースラのスペックを表示する。

そこに表示されたデータを見れば判るとおり、アースラは未だ十分な性能を有している。

アースラは現行の艦船に比べれば旧い型ではある。

だがその設備自体は十分に機能する。

事実、先のJ・S事件の際も問題なく運行できたし、

その時の整備のお陰で今も稼動可能である。

解体命令こそ出てはいるが、

通常はあれだけの艦船になると、艦内の動力を使い内部を解体してから

最後に動力炉を外す為、今なら全く手付かず状態にあるはず。

まして訓練室などは今までの使用経過から、

解体後は廃棄が決定している為、解体の日程は恐らく一番最後になるはずだ。

ならば十分可能なレベルにある。

居住空間などはもう解体されているだろうが、今必要なのは動力炉と

高レベル耐久性をもつ施設だけである。

「・・・それしかないか」

クロノは呟きながら即座に考えを纏める。

送別会という名目で乗り込み、他のクルーたちが宴会を開いている隙に

関係者のみで動力炉と訓練施設、そして艦首を占領。

そして万が一に備え、クラナガンから離れたところで術式を行う

艦首まで占拠するのは

もしコアイーターが暴走しても被害をミッドチルダに及ぼさせない為だ。

クルーは一時的に人質となってもらうことになるだろう。

無論、危害を与えるつもりなど無いし、ある程度離れた時点で即座に開放する。

(まるでクーデターだな)

一瞬でそこまで決めてしまった自分に呆れてしまう。

だがこれしか手段は無いだろう。

決断し顔を上げると、リンディと視線が合った。

何も言わないがリンディも同じ事を考えたらしい。

頷き合うと直に必要な作業に取り掛かる事にした。

そんな二人を見てエイミィもモニターに向き直ると手早く準備にとりかかる。

(・・・はぁ。なんで親子ってだけでこれだけ判りあえるんだろ。少しだけ妬けちゃうな)

少しリンディに嫉妬してしまうエイミィだった。

エイミィも十分に判り合えているのだが、それでも。という奴である。

そんな事を考えつつも手は止めず、表向きは送別会の案内を書き上げていくエイミィを

リンディはやさしい眼差しで見ていた。

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2008年8月18日 (月)

長編SS 24

なのはのリンカーコアへの侵食の加速
それはレイジングハートを手放した当然の結果だった。

レイジングハートは管理局においても屈指のインテリジェントデバイスである。
リインフォースⅡと違い、人間形態を持たぬとはいえ
その処理判断能力と歴戦の経験は並みの魔導師を軽く凌駕する

レイジングハートはその桁外れの能力もって
コアイーターの侵食からなのはを守り続けていた。
それは人間とは違い、24時間活動し続ける事が出来るデバイスだからできた事でもあった。

人は24時間ずっと100%の力で活動を、それも何日も続ける事は出来ない。
だがデバイスは100%の力で活動し続ける事が出来る。
だからこそ、なのはは侵食を受け続けてもこれまで取り込まれずにすんだのだ。

人間はデバイスと異なり一瞬ならば150%、200%の力を出せる
確かになのはの残された力を使えば僅かな間は侵食を防げた
だがそれは一瞬の事。
それが尽きてしまえばリンカーコアへの侵食速度が速まってしまうのは当然だった。

           ○                      ○

   
ヴィータから連絡を受けたクロノ達は素早くこれからの役割を決めた。

なのはの事を考えれば今すぐに駆けつけたかった。
ヴィータの連絡からだけで現在どれほど危険なのか痛いほど理解できる。
だからこそ素早く手分けして行うべき事行う
今はなのはの側で心配している場合ではなく
それぞれがなのはを助けるべく動く時なのだから。

はやてとリインは万が一のときの為にリンカーコアの移植術式の用意に入ることにする。
これは、はやてがリインを生み出したときの魔導式を組みなおすことにした。

リインを除くヴォルケンリッターの4人は
ユーノと共に直ちにジュエルシードの探索に向かう

クロノ、リンディ、エイミィは上層部への対応と場所の確保にあたる
こうなった以上、上層部がコアイーターの破壊もしくは封印を決定するのは時間の問題であるからだ

「ユーノ」
それぞれが役割を確認しなおしている最中、クロノはユーノを呼び止めた。
「なんだい?」
「コアイーターにジュエルシードを〔喰わせ〕、その間になのはを救出するとして、
 その為のジュエルシードの見込みはあるのか?」

それは最もな疑問
元々ジュエルシードは危険指定を受けるほどのロストロギア
存在が確認されているものは全て管理局内にある。
それ以外はP・T事件の際、異空間に消えてしまったはずだった。

「確かに〈ジュエルシード〉は無いよ」
「なっ・・・」
淡々と答えるユーノに唖然とするシグナム達。
それは当然の反応
この手段は〈ジュエルシ-ド〉を〈コアイーター〉に喰わせ、相殺させてはじめて可能なのだから。

「確認されているジュエルシードは全て管理局の管理下だよ。
 でもねクロノ、僕の出身、僕が居る位置を忘れていないか?」
周囲の焦りを受け流すかのように答えるユーノ

「成程な」
「そういうことですか」
それを聞きクロノやリンディはすぐに理解する。

「え?」
いまいち判らなかったのはエイミィ
そして顔色は変えなかったが、はやてもはっきりとは判っていないようだった。
そんなエイミィにクロノが説明をする

「ユーノの出身はスクライア一族。
 スクライアといえば考古学、遺跡探索のエキスパートの一族
そしてユーノは管理局の知識の元である無限書庫の司書長だ」

ここまで言えば判るだろう?
そう意味をこめて視線を送るとエイミィも、
表情は変えずに澄ましていたはやても理解した

つまりユーノは管理局が知らないジュエルシードの場所を知っているという事だった。

「まぁこれは今回コアイーターとジュエルシードがよく似ていたという事が繋がったから
 判ったことなんだけどね」
確かに偶然の確立ではあった
ユーノはなのはと出会う前からジュエルシードの探索をしていて
なのはやフェイト、クロノ達と出会い管理局に入ることになった。
P・T事件でジュエルシードの現物は全て確認され管理局の管理下に入ったが
考古学者の性でユーノは司書の仕事を終えると
ジュエルシードの由来などをコツコツと調べ続けていたのだ

その積み重ねた知識があったからこそ
今回のコアイーターへの対策などに繋がったといえる。

「あと細かい説明はその資料にも書いておいたけれど
 今は便宜的に《ジュエルシード》としているけれど、
これから探すのは昔見つけたジュエルシードとは別物と思って欲しい」
「ここか」
ユーノの説明にクロノは資料の該当項目にざっと眼を通す

そこに書かれていたのは
ジュエルシードはロストロギアの中でも不明な部分が多く
かなり古代から伝承等に乗っている代物だったという事。

「元々コアイーターとジュエルシードは全くの別物で
 ジュエルシードは次元干渉能力に特化したロストロギアだと思われます。
けれどそこに込められた凄まじい魔力から《願いを叶える》なんていう噂が生まれたんだと思われます。
そしてコアイーターはそんなジュエルシードの伝承を元に
戦略兵器、そして無差別の魔力蒐集を目的として作られました。
今回の事では《ジュエルシード》は全く関係無いものなんです」

思えばP・T事件の際もプレシア・テスタロッサはジュエルシードを使い
失われた都市アルハザードへ次元干渉を行おうとしていた。
もしジュエルシードがただ魔力と集めただけの結晶なら
プレシアも別の使い方をしただろう。
そう思えば確かに納得できた。
プレシアは最後は狂気に近いものに捕らわれてはいたが
それでもジュエルシードの本来の使い方を理解していた稀代の大魔導師だったのだ。

「今回探すのはいわばコアイーターの完了品。
 ・・・多数の人間を喰らい尽くし安定状態に入ったコアイーターという事になります」

「・・・そんなのを使うの?」
人間を大勢喰らったーー禍々しいモノーーそう呼ぶに相応しい代物を頼りにする
まるで御伽噺の中に出てくる悪魔の道具を頼りにする。
そんな感覚にエイミィは顔を少し顰め呟いた

「・・・ええ、そうなります。確かにコレは忌み嫌われる代物です。
 コアイーターが安定し眠る。つまりそこにあった文明を、生命体を喰らい尽くした結果であり
 その元凶を頼りにする事になります」

ユーノははっきりと言い切る。
それは一般の倫理観や善悪観、
そして管理局の基本理念などからすれば赦されず理解されない事かもしれない。
けれどユーノは割り切った。

「コアイーターに取り込まれてしまった命はもう取り戻せません。
 だから、もうこれ以上その犠牲者が増えたりはさせない。
その為になら・・・僕は・・っ?」
ユーノがそこまで言うとクロノが肩を叩いた

「判ってるさ、皆。
 善悪だけじゃ割り切れ無い。でも誰かを助けたいと思う気持ちは何も間違ってない。
・・・そうだろ?」
クロノの言葉にその場の全員が頷く

「さあいこう 今は前だけ見れば良い!」

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2008年5月27日 (火)

長編SS 23 

「男同士の話し合いは終わり?」
「ああ」
リビングへと戻った二人にはやてが声を書ける
クロノは何気なく返事をしながら、自分たちを見つめる妙な視線に気がついた

「・・・どうかしたのか?はやて?」
「ううんなんにもあらへんよ?」
そう言いながらもはやてが目配せすると
シャマル、エイミィはなにやらヒソヒソと小声で耳打ちしあい、シグナムはそっぽを向く。
女性陣全員の頬が妙に赤いのは気のせいだろうか?

「・・・・」

部屋に訪れる妙な沈黙。

「あ~・・」
「なんか妙な感じがするんだけど・・?」
クロノとユーノはなんだか妙な空気を感じ、それを崩そうとした、
その時ガチャとリビングのドアを開け、リンディが入ってくる

「ごめんなさい、今戻ったわ」
リンディはそう言いながら周りを見回す
「どうしたの?」
リンディはその鋭い洞察力から場の空気をおかしさを察するが・・・
流石の統括官でもわからないものはある。

「いえ、なんでもないです」
「そうなの?」
「ええ」
クロノとユーノはここぞとばかりに話題を元に戻し、説明を開始する

「資料は全て読んでもらったと思う。
 細かい説明はこれからおこなうが、
先ず言えるのは時間がない事と、この先・・どんなことになるか全く予測がつかなくなるということ」

クロノはそこまで言うと、細かい説明を行うようユーノを促す
ユーノは頷き、まわりを見回すと説明を始める

「まずは1つ目は、なのはに取り付いているコアイーターへの身代わりにあてる為のジュエルシードの確保。
 2つ目はその術式を行う為の場所の確保。
そして念の為の・・・リンカーコアの移植準備。
 これはコアイーターの剥離に失敗した場合、恐らくなのはのコアは取り込まれてしまうだろう。
 その時にフェイトのコアを分け与える必要があるからなんだ。」

「そんな事して平気なの?」
思わずエイミィが質問をする
それは誰もが普通に思う疑問である
リンカーコアははそれぞれが生まれ持つ資質であり、いわば臓器と同じである
その為それぞれ個人で資質や性質が異なるのである
それを移植しようというのは
いくら技術力は地球と比べ物にならない程発展したミッドチルダにおいても
困難な事に違いは無い。

だがエイミィの質問にはもう一つの意味が込められていた
それは分け与える側、つまりフェイトの状態についてである。

ユーノはその言葉に込められた意味を理解すると、一度頷き説明を続ける

「これは殆どがはやてがリインフォースⅡを生み出した時と同じになります
 フェイトの魔力を、レイジングハートに記録されているなのはの魔力パターンに波長を合わせ
リンカーコアの一部と共になのはに分ける。」

「無茶苦茶だな・・」
クロノは説明を聞きながら呟く
「うん。無茶だと思う。それに成功の可能性はとても低い」
「低いって・・・どれくらい?」
はやての問いにユーノは淡々と答える
「恐らく2割以下」
「そんな・・・」

「これは生体間の魔力移植だから、本人たちがいくら望んだとしても・・・拒否反応がでればどうしようもない」

それは人体が持つ防衛反応故の事。
いくら本人が受け入れようと望もうと
自分以外の魔力を体内にいれるのを身体が拒否するのは、意志とは関係ない
下手をすれば入れる魔力と受け入れる側、どちらかが取り込まれ乗っ取られる可能性もあるからだ。

「勿論これは最終手段であって
ジュエルシードの充填のみで無事に引き剥がせる可能性も0じゃない。
ただ、どのような事が起きるか判らないから、その時の最終手段でもある」

「それに・・・」
そこで一度ユーノは言葉を途切る
この先の説明は不要かもしれないし、ユーノとしてもしたくは無い
なによりフェイトを、そしてフェイトの家族、リンディ、クロノ、エイミィを傷つけるかもしれないから。

けれどこれは、この説明は自分がやらねばならない。
たとえ嫌われようと、傷つけようとも
今はなのはを、そしてフェイトと皆の笑顔を取り戻したい

その為にみんなここに居るのだから。
この事を説明しない事で余計な疑問や不安が残り
失敗につながったりしたら、悔いても悔やみきれない事になる。

覚悟を決めるとユーノは顔をあげ、しっかりとした口調で話を続ける。

「それにこの事に関してはフェイトが一番・・・適任なんだ。魔力総量もSクラスで問題は無い。
そして・・フェイトの素質。
つまり生まれと、受け継いだ大魔導師プレシア・テスタロッサの素質からもいえる」

「ユー・・・」
ユーノのその言葉に、思わず荒い口調で問い詰めそうになるクロノだったが
ユーノの手がきつく、血が滲みそうなほどに握り締められているのに気がついた

そう、ユーノはフェイトの過去を穿り返して楽しむような奴ではない。
なのにこの場であえてそのことに触れるのは
それが必要な、決して避けては通れないことだからだ。
それを瞬時に理解するとクロノもきつく拳を握り締めた。

「つまり・・・」
「ええよ」
ユーノが言おうとした続きを聞かず、はやてはそれを止めた。
「はやて?」
「つまりはこの中で一番フェイトちゃんが適任で、全ての鍵はフェイトちゃんにあるって事やろ?」
「うん」
はやての問いかけに頷くユーノ。
かなり大雑把ではあるがその意味に間違いは無い。

「ならそれで十分や」
そういうとはやてはにっこりと微笑む。
その表情ではやての思いはこの場の全員に十分伝わった

リンディ、クロノ、ユーノ達はフェイトの生まれやその後のプレシアとの事を全て知っている
けれど、はやて達はそこまでの詳細な事情は知らない

ただフェイトがつくられて生まれたという事はフェイト自身から聞いていた。
でもそれを知ったところで、はやて達のフェイトに対する認識が変わった事など一度も無い。
だからこそ今回もそれは関係なかった。

「わかった」
ユーノもはやての、その想いを理解すると言い直す

「このなかで一番の適任はフェイトだ。
 なのはに対する想いの大きさ、強さ、
そしてなのはからのフェイトへの想い。・・・そういったのを全部合わせて・・・ね」

「了解や」
はやてを始め全員が満足げに頷く
先程、ユーノのなのはに対する気持ちを知ってしまったクロノだけは少しだけ考えたが
ユーノの表情に一切の迷いが無いのを見て取ると、その事は心の奥に仕舞う事にした。

同時にこんな理由で納得してしまう自分に少しだけ呆れる。
理論では、頭では拒絶反応は本人たちの意思や想いなんて関係ないと十分に知って、理解しているのに
あの二人ならばそんな事はない。と思えてしまう自分に。

「ではジュエルシードの捜索についてだが」
「それに行くのは私らや」
クロノが言うとすぐにはやてが名乗りを上げる。

「私らには、誰にも無い私らだけが出来る事がある」

それは蒐集行使。
数多の魔導師がその身を置く時空管理局においても
はやてのみが持つ特殊スキル

「でもそれは・・・」
クロノは言いかける
確かに自分やユーノはこの先どのような事態になるか判らない
ただそれでも、二人の今の地位から考えると最悪免職程度でどうにかなる可能性も高い。
だが、はやては以前の闇の書の事件の当事者でもあり
ヴォルケンリッター達は直接の加害者でもある

勿論それは闇の書というプログラムから起きたことであり
現在のはやて達が直接関与したわけではないが
未だにその事を根に持っているのもたちが多いのも事実ではある

ただそれは身内を殺された遺族達や、
また直接被害にあった者からすれば、当然といわれても否定できない事でもある

つまりはやてとヴォルケンリッター達は何か問題や失態を起こせば
槍玉に挙げられる可能性が一番高いのだ。
「はやて」
「わかっとる。私らの立場も、周りの目も。
・・でもそれは私らがちゃんと受け止めていかなければいけないことや」
はやては言いながら最愛の家族を見回す

「それにな。私は嬉しいんや・・かっては管理局に、人々に恐れられ、傷つけてしまった魔法の力。
 だけど今は違う。
誰でもなく、私たちを助けてくれたなのはちゃん、フェイトちゃんを助ける為にこの力がある。
 そのことが嬉しいんや」

はやてがそう言うと、シグナム、シャマルも頷く
主の想いに従うことに何一つ不満など無く
そして主は自分たちの思いを全て汲み取ってくれる
そのことに例え様も無い幸せと、嬉しさを感じながら。

「じゃあジュエルシードについてだけど」
ユーノが詳しく説明しようと口を開いた。
その時ーーー

「ヴィータ?!」
突然はやてが声を上げる

「主?!」
「はやてちゃん?!」
それはヴォルケンリッターのヴィータが主であるはやてに送る緊急の念話だった。

それは管理局などの監視に掛かることはないが
魔力をそれなりに消費するので滅多に使うことが無い手段。

「はやて!なのはが大変なんだ!」
その言葉からはやては瞬時に念話の回線をここにいる全員へと繋ぐ

「なのはが消えちまいそうなんだ!」

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2008年5月13日 (火)

長編SS 22 

フェイトがヴィヴィオと再開している頃
クロノの自宅のリビングは臨時で会議室となっていた。

今ここにいるのは管理局のエース達といって良いメンバーばかり。
リンディはヴィヴィオを送りにいっているのでまだ帰ってきてはいないが。

クロノ、はやて、エイミィ、ユーノ。
それに遅れて到着したヴォルケンリッターのシャマルとシグナムの総勢6人
同じヴォルケンリッターのリインとヴィータ、それにザフィーラは来ていない。
3人が来ていないのには理由があった
いくらなんでも、この状況でこのメンバーが全員集まるのは目立ちすぎる為である。

勤務が終わればどこに居ようと、基本的には個人の自由ではあるが、
今回の件の事を考えれば、何らかのマークがついている可能性は否定できない。
短時間であればフェイトの見舞いなどの名目でどうにかなるだろうが
クロノは謹慎中である
そう考えればどこに監視の眼があるか判らないのも確かである。

皆、管理局の仕事に誇りをもって勤めているが
今回のなのはへの対応に関しては
背後に上層部の利害と派閥争いを感じはじめていた。

JS事件での地上本部の崩壊以降
空の、次元航行隊の発言力は以前よりはるかに強くなっており、
そして管理局で最も有名になったエースオブエース。

機動六課のメンバーはJS事件の後解散しそれぞれの職場へ戻っていったが
個人個人がそれぞれ強いつながりは残っている。

そしてなのはとフェイトの部下であった
スバル、ティアナ、キャロ、エリオの四人は時期エースとの評価も高い
ロングアーチのグリフィス、アルト、ヴァイス、シャリオも同じである。

つまり現在の管理局で最も実力、人望、人脈が有る者達は全て
なのは、フェイト、はやての3人の影響下にある。
そう上層部の一部は判断したのである。

権力にしがみついている者はどんな時代にも、
どのような所であっても、組織があれば必ず存在する。
それは管理局といえど例外ではない。

口には出す事は無かったが
その上層部に近い地位にいるリンディ、クロノは特にそれ感じていた。

 
         ○              ○

「クロノ」
「なんだ?」
皆が真剣に資料を読んでいる中、ユーノが小声でクロノに声を掛ける。

今回の資料はユーノが作ったのでユーノは熟知しているし
出来上がった資料は一番にクロノにまわされたので、クロノもすでに完全に頭に入っていた。
故に皆がその資料を読んでいるあいだ二人は僅かだが暇になる

ユーノは手でベランダを示す
クロノは直ぐにその仕草の意味を理解し、静かにベランダへと移動した

「いいのかい?」
クロノがベランダへ出てガラス戸を閉じると、ユーノは振り返りそう問いかけた。

主語も何も無いが、それでもユーノの言いたい事はわかる
ユーノが言っているのは、今回の事は管理局の決定に違反しかねないという事。
つまり上層部との対立や
流れ次第では今の身分なども失いかねないという事だった。
ましてや上層部の権力争いが絡んできた場合
この中でもっとも眼を付けられる可能性が高いのはクロノである。
30歳前にして執務官兼艦長。
そしてオーバーSの歴戦魔導師。
権力にしがみつく上層部にしてみれば、もっとも警戒するであろう人材である。

「迷いは無いさ」
クロノは振り返り、今もリビングで資料を真剣に読いる面々を見ながら答えた。

ここに居る全員は誰一人出世や、名誉などは望んでいない。
今は只なのはを、そしてフェイトを助けたいが為に動いている。

クロノは執務官であり、まして時空航行艦の艦長である。
後の事を考えれば慎重に、
そして保身を考えれば管理局の言われるままに従うべきだとは十分に判っている。
けれど。

そう、どんなに考えても「けれど」と思う自分がいる。

ならば自分の信じるままに動こう。

「お前こそ、いいのか?」
クロノはユーノに問いかけた
それはクロノなリの配慮。
ユーノはいまや著名な歴史学者でもあり、
今の無限書庫司書長というのはユーノにとって天職である。
いわば子供の頃からの夢でもあった仕事だ。
今回の事に、しかも作戦の根幹に関わったとなれば場合によっては免職すらありえる。

「いいんだ」
ユーノはベランダの手すりに寄りかかると迷い無く答えた。

「僕はまだ一人身だしね。一人ならまた発掘に戻ってもやっていける」

「それに・・」
ユーノはそのまま夜空を見上げた
雨は既に止み、雲は残っていたが切れ間に月も見え始めていた。

「なのはは僕にとって星なんだ」
「星?」
クロノも同じように夜空を見上げながら問い返す
「そう、星。何処に居ても見上げれば思い出せて・・・けれど絶対に手に入れられない。」

「太陽とかじゃないのか?」
クロノは聞き返す
フェイトが昔、なのはをそう表現していたのを思い出して。

『その人は私にとって太陽なんだ。どんな時でも支えてくれて、道を照らしてくれる、お日様みたいな人』

フェイトがエイミィに嬉しそうに話しているのを偶然聞いた時
クロノは義兄として少し、色々考えたものである。
その時はその相手がなのはだとと思っておらず「どこの男だ?」と思ったものだが。

なのはの事だとわかった後も少し考えはしたが
本人たちが何より望んでいたのと
なのはならばその辺の男などより遥かに信用できると安心したのも
今では良い思い出ではある。

 
「星・・だね。空を見上げれば欲しいと思ってしまう。けれど・・
 側に居なくても、輝いて、無事で居てくれると判れば、それで僕は満足できてしまう。
勿論いつまでも輝いて、笑顔で居て欲しいと願っているけれどね」

ユーノは雲の切れ間に、
見えないけれど、そこある星を探すかのように見つめ続ける。

「なのはが一番輝いているのはフェイトと居る時なんだ。なら・・・僕はそれで満足さ」
「そうか・・・」

それはユーノなりの愛し方
側にいて一緒に生きていく愛し方ではない。
見守り、そして相手に気が付かれなくても後悔しない

・・・そんな愛し方

「だから僕はだいじょうぶ」
「わかった」

それは覚悟
「大丈夫」その言葉に全てをこめ、そして受け止める。
家族を、大切な人を守るためなら
幾らでも傷つこうと倒れたりはしない。

たいせつなものとその笑顔。
それが守れるなら
例え一時だろうと笑顔になってくれるなら
自分はどんなに傷つこうと、苦しい目にあおうと歯を食いしばって耐えてみせる。
華やかな舞台も、称える賞賛も、慰めの声も必要ない。

傷だらけで泥にまみれたって、
その先に、守りたいものと、その笑顔さえあれば。 それだけでいい。

「損な役回りだな」
「男なんてそんなもんさ」
「違いない」

気がつくとリビングから皆がこちらを見ている
もう目を通し終わったらしい。
ならばここからは全てが一気に進むだろう

ユーノの言葉にクロノは頷き、手を握り締めると拳を作り軽く掲げる
ユーノもそれに答え同じく拳を握り締める。

そしてお互い拳をぶつけ合う

「そんな生き方だって・・・悪くない」
「ああ」

そいう言い二人は並んでリビングへと戻った。

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2008年4月14日 (月)

長編SS 21 「子」

「ママっ!」
「ヴィヴィオ・・・!」
リンディ母さんに連れられて部屋に入ってきたヴィヴィオは
ベットの上で上体を起こしている私を見ると、すぐに駆け寄って抱きついてくれた
私もしっかりとその小さな身体を抱きしめる。

       ○             ○

 
あの後私は桃子さんに付き添われ
なのはの実家である桃子さんの家に移った。

私が今居るのは、なのはの部屋。

管理局に入ってからは、家もミッドチルダに移したので
衣類や日常使う物はミッドチルダの私たちの家にある。
だからこの部屋にあるのはなのはが小さい頃使っていた机とベットだけ。
けれど何時なのはが里帰りしても良い様に、
部屋は綺麗に保たれていてベットも昔のままだった。

小さい頃のなのはが使っていたとはいっても
ベットは大人用の物なので何も問題なかった。

桃子さんは客室を用意してくれようとしていたのだけど
私がお願いしてこちらにしてもらった。

確かになのはに断りなく使うのには少し気が引けもしたのだけど、
でも今は少しでもなのはが感じられる場所に居たかった。

ここに居れば今にでもなのはが
「フェイトちゃん!」そう言いながらドアを開け入って来てくれる様な気がしたから・・・

          ○           ○

「エリオとキャロには私から伝えておいたわ。あまり細かい事は今は説明できないけれどね」
「はい・・」
私はヴィヴィオを抱きしめ、髪を撫でながら返事を返す。
リンディ母さんは二人には「任務の都合上」と言ってくれた。
確かにこの先の事を考えると
既に正式な管理局員である二人はこれからのことは知らない方がいい。

もしかしたら管理局の規則に抵触するような事態になるかもしれない。
仮にそうなっても、二人は知らなければ何も及ぶ事はないのだから。

「まずフェイトは身体を休める事と、ヴィヴィオのことをお願いね。
 ・・・・[むこう]の事は私たちがキチンとやっておくから」
「はい」

[むこう]とはなのはを助ける為の様々な準備の事
この場でなのはの名前を出せば
ヴィヴィオに心配を掛けるだろうからとの母さんの配慮。
私も参加したいけど、この身体では迷惑なだけ。
それにそこに居るのは
リンディ母さんを始め、クロノやはやてにヴォルケンリッターのみんなとユーノ。
それは管理局でも屈指の精鋭ばかり。

前は身内過ぎて判らなかったけれど、
執務官になってみてよく判ったその実力。

なのはへの心配は尽きないけれど、みんなへの信頼は十分すぎるほどある。
だからこそ今は少しでも身体を直すことと・・なによりヴィヴィオを安心させてあげたい。

「ありがとう・・母さん」
私がそう言うとリンディ母さんは微笑を返してくれた
そしてそっと部屋のドアを閉め、私達二人だけにしてくれた。

          ○           ○

「ごめんね・・ヴィヴィオ」
私は私にしがみついているヴィヴィオを撫で続けながら謝る
ヴィヴィオの身体が震えているのを感じる
泣いているのだろう。

幾らエリオをキャロに懐いていても、
これだけの期間私達と離れて生活して居たのは初めてなのだから。

私とは任務の関係で1週間くらい離れることはあっても
なのはとは必ず毎日会っていたのだから。

「ごめんね・・・」
私はしっかりを抱きしめながらヴィヴィオに謝った。

その後しばらくヴィヴィオは私に抱きついていたのだけど
身体を離すとそのまま私の膝の上から見上げてきた。
泣いていると思ったのだけど・・ヴィヴィオは泣いていなかった。

「ヴィヴィオ・・?」
「だいじょうぶだよフェイトママ。ヴィヴィオはだいじょうぶ」

ヴィヴィオはそう言って私に抱きつきながらそう答えてくれる。
それで判った。
たぶんヴィヴィオは何となくなのはの事を判っている。
でも周りに心配をさせないようにがんばっている。
なのはの教えてくれた事・・・「がんばろう」を守ろうとして。

「うん。強い子だヴィヴィオ」
私はそう言ってヴィヴィオの頭を撫でる
本当に強い子になったヴィヴィオは。

それに比べ私は弱くなってしまったのかもしれない。
私がそう思っていると
ヴィヴィオは私の顔を覗き込み、そしてじっと目を見つめていた。

「ヴィヴィオ?」
「あのね・・・ここがいたい時はがまんしないでいいんだって」
ヴィヴィオはそう言って右手を私の胸に、左手を自分の胸に当てた。

「なのはママは、がんばって泣かないように」って教えてくれたけど、
 でも『本当にさびしかったら、泣いてもいいんだよ。
  そうしたらなのはママもフェイトママもすぐに来るから』って。」

ヴィヴィオはそこで一度言葉を切ると
私の頭をその胸に抱きしめた

「だからフェイトママもここが痛かったら泣いてもいいんだよ?
 そしたらなのはママとヴィヴィオがすぐにくるからね」
「うん・・ありがとう・・ヴィヴィオ」

私はヴィヴィオをぎゅっと抱きしめた。

「なのはママがいつも言ってたんだよ。
 『なのはママはフェイトママとヴィヴィオが待っててくれるから帰ってこれるんだ』って。
 だからこんどもちゃんと帰ってきてくれるよ」

「そうだね・・・なのははいつも約束守ってくれるものね」
「うん!」
「だから大丈夫だよね」
「うん!」
私も不安をかき消すようにヴィヴィオは元気に返事を返してくれる。

そう。だいじょうぶ
こんなことでくじけてちゃいけない
私はヴィヴィオを抱きしめ、その温もりを感じながら
改めて心に誓った。

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2008年4月 7日 (月)

長編SS 20 「母」

「さて、まず色々とやることはあるけど・・」
はやてがそう言うと、みんなはやての方に向き直り表情を引き締める
アリサとすすかを見送りに行っていた母さんとエイミィも戻ってきて、それぞれ腰を下ろす。

「フェイトちゃんにはまず始めにやってもらうことがあるんや」
「え・・私?」
はやてに突然向き直られ戸惑う

「そう。フェイトちゃんがまず始めにやらないとならんことは体力の回復や」
「あ・・」
指摘を受けるのはもっともだった。
確かに私はなのはが倒れてから、ちゃんと身体を休んでない。
あの後からの事は記憶にもあるのだけど、
ずっと夢の中に居たような感覚でもある。

食事はある程度取っていた記憶があるのだけど
現に身体は母さんたちに支えてもらって居ないとまともに立っているのも怪しい。
それに魔力は殆ど尽きている。
こんな状態ではみんなとなのはを助けるどころか足手まといになってしまう。

「きちんと体力と魔力を回復させて」
「はい」
母さんにもそう言われ私は頷いた。

「心配なのはわかるけど、肝心のフェイトちゃんがそれじゃうちらも困ってしまうんや」
「・・・ごめん」
「だから、な?細かい作戦はうちらがきーっちり作っておくから、まずは休んで」
「ありがとう。はやて、みんな」
私がお礼を言うとはやては笑顔で頷いてくれ、みんなも頷き返してくれた。

「じゃ部屋に行こう」
そう言ってアルフが支えてくれる
「あ・・・待って」
「なんだいフェイト?」
私が慌てて足を止めるとアルフは不思議そうに私を覗き込んでくる
「確かに魔力を回復させなきゃいけないんだけど・・・その前に・・ヴィヴィオに会いたい」

『あ・・・』

母さん、アルフ、はやてみんなが声を上げる

「こんな風に成っちゃって保護者失格かもしれないけど・・・でも・・・お願い・・」
私は母さんたちを見つめる。

「えっと・・・」

「判ったわ」
「リンディさん?!」
「母さん!?」
はやてが口を開くのと同時にリンディ母さんが答え、慌ててクロノやエイミィが声を上げた

「そうね。確かに今フェイトは大変な時。可能なら状況が落ち着いてから会うべきなのかも知れないわね」
「なら・・!」
クロノが詰め寄る

「でも、フェイトはちゃんと自分で娘の事を思いだして、会いたいと言い出したのよ。
  親が、母が子に会いたい。その思いを止める権利なんて誰にもないはずよ?」
リンディ母さんはそう言ってクロノを、エイミィを見つめる
「・・・」
クロノとエイミィは黙って顔を見合わせた。

「いいわね?」
「・・ええ」
クロノもエイミィもカレル、リエラの事に置き換えて考えてくれたのだろう。
納得してくれたように頷いてくれた。

「ならフェイトちゃん。うちにヴィヴィオといらっしゃい」
『桃子さん?!』
桃子さんの突然の申し出に驚いて皆が振り向く
「素人の考えだから的外れかもしれないけど・・・
 これからみなさんで大切な事を決めるのでしょうし、
それはギリギリまで伏せておく必要があるみたいですし。
ならすぐ近くで取れるところで、フェイトさんもヴィヴィオも休んでいる事が良いと思うのですけど・・・」

桃子さんも意見にはやてとリンディ母さん、クロノは少し考える

「そうね」
決断したのはリンディ母さんだった。
「申し訳ないのですけど、お願いできますか?」
『母さん?!』
とっさに私とクロノが反論しようとする
幾らなんでもそんなに迷惑は掛けられない。

けれどリンディ母さんは桃子さんと視線を交わすと、こちらを振り返り静かに微笑む

その視線は私に何かを伝えようとしているようで。
桃子さんを見るとリンディ母さんと同じ目をして桃子さんも私を見ていた。

その目を見て私は何となくだけど理解できた。

1つは私が管理局にマークされていること。
なのはのことで施設内で暴走してしまい、それが理由で私は恐らく管理局に魔力サーチを掛けられている。
そんな私が魔力を回復させながらこの場所に居て、
かつ高魔力を持つはやてやクロノ、リンディ母さんたちまで何度も出入りしていれば怪しまれてしまう。
そうなればこの先どんな制限を課せられるか判らない。
そう考えれば私はきちんと回復するまでここから離れている方がいい。

それに私の性格も読まれている
私がなのはのことになると無茶をすることが多いから
少しでも回復すれば無理にでも参加しようとすると思う。
・・・これに関しては半ば自覚しているからどうしようもないのだけど・・・
けどそれよりも今は魔力の回復に集中しろって意味だと思う。

そしてもう1つ。
たぶんだけど桃子さんへの配慮なんだと思う。

なのはに関して私と同じくらい、ううん親子って事では桃子さんは私以上に心配なはず。
けど魔力を持たず、ミッドチルダに行く事が出来ない桃子さんにはどうしようもない。
そんな状況でも桃子さんは私達に何も言わず信頼してくれている。
けどそれはとても辛い事。
だからこそ少しでも協力したいと言ってくれ、その気持ちにリンディ母さんは答えたんだと思う。

落ち着いて考えてみて、やっとわかることなのだけど
リンディ母さんと桃子さんはあの一瞬でお互いの気持ちと思いを通じ合わせ、互いに理解して見せた。
それをみて私は二人の「母」という偉大さを少しだけ理解できた気がした。

だから、
「はい。お世話になります」
私がそう言うと桃子さんは
「うん」
そう言って私をなのはと同じように抱きしめてくれた。

            

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2008年3月11日 (火)

長編SS 19 

ユーノとシャマルさんはエイミィから連絡を受けると直ぐにこちらに来てくれた。
そして休まずそのまま状況をを纏め直すと同時に、必要なことを洗い出してくれる
そして起こりうる危険性も。

まず魔力暴走による副作用
それは融合事故か暴走、そして凍結がありえるらしい

融合事故はデバイス事故と同じ、どちらかが身体をのっとってしまう事
この場合だと可能性では私がなのはの身体を乗っ取ってしまい
私の身体が抜け殻になる場合や、もしくはお互いの精神が入れ替わる可能性。

そして暴走は文字通り、私たちの魔力許容量を超えてのオーバーロード

凍結は現在なのはを助けるために掛かっている凍結魔法 「エターナルコフィン」の干渉が考えられる

この魔法は元々が第1級ロストロギア「夜天の書」ですら封じる効果があるように組まれている為
人が扱える凍結系魔術では最大の魔法。
それだけにどのような干渉があるかは判らない。
だけどあの時クロノがエターナルコフィンを使ってなければ、
間違い無くなのははコアイーターに飲み込まれていたのだから
あの状況では最も有効な手段だった。

 
         ○         ○ 

「これ以上は私たちが居ても邪魔になっちゃうから、このへんで失礼するわ」
私が母さんに支えられリビングに移ると、すでみんなは分析などを進めていた
それを見て、一緒にリビングに移ったアリサはそう言うと、すずかと一緒に上着を手に取った。

「邪魔だなんて・・」
私はそう言いかけたけど、アリサは軽く微笑んで首を振る
それで十分に意味が判った

この先は場合によっては、違法行為にもなる。
アリサとすずかも協力してくれるけど、これ以上のことは危険が伴うし
こちらの世界の住人である二人は関わらない方が動きが取りやすい。
もし管理局から何か干渉があった場合、二人にはどうしようもなくなってしまうのだから。
だから二人はあえて関わらないでくれているのだ。
なのはの事を、私の事まで心配してくれているからこその行動だった。

「ありがとう・・」

私がそういうとアリサは少し頬を染めて横を向いてしまう。
でもそれはアリサが照れた時に良くやる仕草
その証拠に隣のすずかは「まったく・・」そういわんばかりの表情でアリサをみていた。
周りで見ているみんなも微笑みながらそれを見ている
すずかや私、そしてみんなの視線に気がつくと、
アリサは少し慌てたようにしてから突然ユーノに向かって指を突きつけた

「ユーノ!」
「え?!」
突然の声と目の前に突き出されたアリサの指にユーノは驚いて
のけぞった後、慌ててメガネを直す

「さっきから聞いてて思ってたんだけど、
 そんな細かい事は幾つ並べてたって、確率を上げるおまじないと大して変わらないわ。
 こういうのは気の利いたシンプルな一言でまとめるものなのよ」

『は?』

アリサの行っていることが判らず戸惑うユーノ
ユーノだけじゃなくて私やみんなも判らないみたい。
だってユーノが調べてくれたのはとても重要な事で、
そこからなのはを助ける切っ掛けが見えてきたんだから・・・

「まったく・・・みんなして判らないの?
 [魔法使い]なんて御伽話の登場人物みたいなことやってるのに、誰も判らないなんて」

アリサは周りのみんなや私を見回した後、あきれた様子で大きくため息を吐く。

私もまだアリサが言っていることが判らなかった。
他のみんなも判らないようなのだけど・・・
そんな中、すずかだけは答えが判ってる様で楽しそうに微笑んでいる

「いいこと、ちゃんと聴きなさい?」
アリサはそういうと一呼吸おいて少しだけ声を大きくし、みんなに聞こえるように言い切る。

「眠りに落ちたお姫さまを目覚めさせるに必要なのは、王子さまのキスと深い愛。必要なのはただそれだけ」

「こんな簡単な事もわからないの?」
アリサは全員を見回してから「してやったり」といった笑顔を浮かべた
それを聞いて私を含め、母さんですらあっけに取られ声が出なかった。

「ぷっははっ!」
少しの静寂のあと、一番にはやてが噴出した。

「あっははっ!そうやね。たしかにそうや。一番大切なこと忘れとったよ」
はやてに笑い声に導かれるように笑いは広がっていって・・私もみんなも笑っていた。
アリサはそれを見て満足げに頷く

「そう。それでいいの。どんな時だって笑顔を失ってはダメよ」
アリサの言葉にはやても頷く。

「そうやね。私らはどんな事も乗り越えてきた。
 辛い事やキツイ時だって、越えたらその後はみんなで笑いあっていられるって信じて」
はやてがみんなを見廻すとみんな、私も頷く

「今・・・ここにはなのはちゃんはおらんけど・・
 でもこの後にはなのはちゃんも一緒に またこうやって笑い合えるって信じてる」

『うん』

「もう平気ね。なのはの事になると危なっかしい位に、なのはしか見てないフェイトだけど、
 今はそのまま真っ直ぐに進みなさい」
「うん・・ありがとうアリサ」
私はアリサに向かい頭を下げてお礼を言う
アリサは微笑んでくれた。

「じゃ私達はこれで失礼するわ」
「失礼します」
アリサとすずかは立ち上がると、お辞儀をして玄関へと向かう
母さんとエイミィも外まで見送りに一緒に行く
私も行きたかったけどそれはアリサに視線で止められたので素直にここで座っていることにした

「ありがとう」
改めて二人にそう言うと、
すずかは振り返って優しく微笑んでくれる。
アリサは振り返らずにそのまま軽く手を挙げヒラヒラと振って返事をしてくれた。

           ○                 ○
.

雨はもう止んでいたが、まだ雲が多く月がは見えない。
そんな夜道をアリサとすずかは並んで帰路についていた。

「格好良かったよアリサちゃん」
すずかは少しだけ小走りをして、アリサの前に回りこむとそう笑いかける

「当然」
アリサは胸を張って答える
すずかはそんなアリサをみてクスリと笑みを漏らす

アリサは少しすずかを見た後、まだ雨雲が残る夜空を見上げた。
すずかもつられるように夜空を見上げる

「反省はしても後悔なんてしない。それが私、アリサ・バニングスの生き方。
 自分の進む道は自分で切り開く、そしてその道を通っていいのは自分だけよ」

アリサのその声は独白のようにも、そして宣言するかのよう。
すずかには、それはこの先の自分たち二人の関係の事を言っている様にも聞こえた

「・・・そう・・だね」
どうにか返事をするがかすれた声しかでなかった。

アリサはすずかのその声に視線をすずかに戻す。
そしてその曇った、今にも泣きそうな顔を見て大きくため息を吐く。

「・・・でも、私の道は・・・すずか、アンタだけは一緒に通っていいわ」
「・・・え?」
アリサはそう言うとすずかの手を強く握り指を絡ませる

「え?あ、アリサちゃん?それって・・」
突然の言葉と、手に感じるぬくもりにすずかは戸惑うが
アリサは全く気にせず、やや強引にそのまま手をつなぎ歩きだす。

「さ、帰るわよ」
「あ、まってよアリサちゃん!」

やや強引に引っ張りながらも、すずかが転んだりする事など無い様にアリサは気を使って歩いている
すずかはすぐにそれに気がついた。

すずかは繋がれた手に力を入れキュっと一瞬だけ握ってみた
すぐにアリサも軽く握り返してくれた

「えへへ・・」
「なによ」
「なんでもないよっ」
すずかの顔には先ほどまでの不安はもう無かった

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