長編SS 28
「この結界の中なら人目にはつかないから」
ユーノの言葉に3人は村から離れた場所で打ち合わせを始めた。
「じゃあその[コアイーター]は村の奥に在るんだな?」
「うん。奥というか村の奥にある隠し通路のようなものを通った先にある」
「よくスカリエッティ達に見つからなかったものね」
シャマルが感心したように呟く。
「そこは色々有ったようですが、今はとにかく時間が無いので事情は現地で説明します。が」
「が?」
「ちょっとその格好ではマズイのでこちらに着替えてもらえますか?」
そう言ってユーノが取り出したのは、淡い草色のワンピースとカーキ色のジャケットだった。
「これにか?」
受け取りながらヴィータは広げてサイズなどを確認する。
文明の程度などから現代と比べてしまえば劣るものではあるものの
けっして悪いものではない。
ワンピースは手編みらしく僅かだが編み目が不揃いなのが判る。
だがこちらの文明レベルから考えれば十分なものなのだろう。
ジャケットは革製である。
「先ほども言ったとおり、できる限りでこの世界の文明レベルにあわせる必要があるんだ」
ヴィータの声色を不満の表れと感じたのか、少々焦りながら説明するユーノ。
「ヴィータちゃん」
そんなヴィータの態度に注意を入れるシャマル。
「あ。ワリイ。そういうつもりじゃねぇんだ」
ヴィータもそんなつもりは無かった為、素直に謝る。
「とりあえず下にバリアジャケットのインナーなら着られる様な服にしました。
流石に外装は無理ですが。それを着たら、二人は村に向かって下さい」
「判りました」
「判った。って二人?お前は?」
「僕も準備して向かうよ。でもその・・」
言いずらそうに言葉を濁すユーノ
「なんだ?」
何か問題が有るのかと訝しげにヴィータは視線を向ける
「はぁ~」
ユーノは小さく溜息を吐くと口の中でゴニョゴニョと何かを呟く
「なんだ?聞こえないぞ?」
「い、いや・・」
ヴィータ追求にユーノは焦る表情を浮かべる
「何か問題でも?」
シャマルは、噛み付きそうなヴィータを押し留め問いかけた
「いえ、その・・あの村には僕は入れないんですよ」
「は?」
シャマルとヴィータの目が点になる。
「あの遺跡は女性のみ立ち入りが許されていて、幾ら調査とはいえそれを破る訳にはいかないんです。」
「じゃあどうするんだ?」
「どうにかして合流するので、二人は先に行っていて下さい。
この腕輪を村長に見せれば、遺跡まで通してくれます」
そういうとユーノはポケットの中から鈍く輝く腕輪を取り出しヴィータに渡した。
「これを見せれば良いんだな?」
「はい。以前一度来た時に、約束の証として受け取りました。
『これをもっている人物達には調査をさせてくれる』と約束したので」
「判った」
何となく会話の流れに違和感があったが、ユーノがそう言っているのだから信用する他は無い。
ヴィータは素直に腕輪を受け取ると腕に嵌めるが、
直ぐに何かに気がついて外すとシャマルに渡した
「ヴィータちゃん?」
受け取りながら不思議そうに首を傾げるシャマル
「アタシがこんなのしてたら壊しちまうかも知れねえ。シャマルが持っててくれ」
「あ。そうね」
シャマルはヴィータの言葉に納得し腕輪を嵌めた。
サイズは問題ない。
やや小さめであるのだが重量は見た目よりも重く感じた。
銀製かと思ったが違うのかもしれない。
後衛のシャマルには特に気にならないが、
前衛のヴィータには少々気に掛かる重さでもあったのだろう。
(でもそれに気がつけるなら心配は無いわね)
魔力があるなら装備の重量は気にする必要ない。
だがここはコアイーターの関係する場所での探索
もしかしたら魔力を使えない状態での戦闘なども考えられる。
そうなれば己の身体だけが頼りに成ってしまう。
そんな時に、普段付けていないものを身に着けていれば、
思わぬ不覚を取るかもしれない。
それをヴィータは警戒したのだ。
シグナムが居ない今、前衛はヴィータが専門になる。
焦っているように見えるヴィータではあったが
ちゃんと状況を理解し、冷静な部分は冷静であることにシャマルは安心した。
「さて、じゃあ準備をするか」
そう言ってヴィータが声をかけるとユーノも頷いた。
「じゃあ二人はその腕輪を見せて、村の奥、遺跡の中に入って直のところで待っていてください。僕もそこに合流します」
「判った」
「判りました」
「では」
そういうとユーノは自分の荷物を持ち、村とは違う方へと小走りで走っていった。
○ ○
「ここか」
十数分後、ヴィータとシャマルは村のすぐ近くまで来ていた。
確かに中世のレベルなのだろう。
家は焼いたレンガが使われているが、一部木や自然石を利用したものも見える。
「誰に話せば良いのかしら?」
シャマルが左手に通した腕輪をみながら呟く。
「とにかく中に入ってみるしかねえんじゃないか」
ヴィータがそう言い歩きだそうとしたときだった。
「ん?」
「え?」
村の奥からこちらに向かってくる人影がみえた。
それは2人の子供だった。
「おねーちゃん達がシャマルさんとヴィータさんだね!」
背の大きいほうの少女。
といってもヴィータより少し小さい。おそらく8歳位だろう。が息を整えながら声を掛けてきた。
「はぁはぁ、はぁ。おばあちゃんに言われて来ました。」
少し遅れて追いついた少女が息を整えると、説明をしてくれた。
こちらは僅かに背が小さい。
顔立ちが良く似ており、姉妹らしい。
「ええ、そうだけど」
「おばあちゃん?」
シャマルが答え、ヴィータが首をかしげた
「おばあちゃんはここの長(おさ)なんだ。で
『女の人が二人来るから迎えにいって来なさい』っていわれたの!」
小さい方の子が元気良く教えてくれる
「そっか。じゃあ案内よろしくね」
『はい!』
シャマルが笑顔で伝えると二人で声を合わせて返事をしてくれた。
○ ○
シャマルとヴィータは二人の少女に先導され村の奥へと進んでいく
小さな村なので、数分で目的地の村長の家に着いた。
家の前には一人の女性が待っていた。
「お待ちしていました。私が村長をしていますフレアと申します。」
シャマルが口を開く前に相手から自己紹介があった
「あ、シャマルです」
「ヴィータです」
二人も慌てて名乗り軽く会釈をする
二人とも「村長」という言葉から年配の、しかも少女たちから「おばあちゃん」と聞いていたので
目の前の女性とは思わなかったのだ。
目の前の女性はどうみても中年、いや見た目では40代にもなっていないだろう。
「お持て成しをしたいところなのですが、かなりお急ぎとのお話を伺っています。どうぞこちらへ」
そういい家の裏手、村のさらに奥へと歩き始めた
フレアの口調と視線から、二人はすでにユーノが話をフレアに伝えていたのが判り、
素直についていく。
迎えに来てくれた少女二人も少し遅れながらも付いてきた。
○ ○
そこは村長の家の裏から細い道進み川を越えた先、滝の目の前だった。
「あの滝の裏手、脇から回り込むことが出来ます。その先でユーノさんがお待ちです」
「え?」
「先に来てるのか?」
「はい。お二人がこられる少し前に。「先に行って準備をしておきます」とのことでした」
「そっか」
「では私たちはここで」
「ええ~」
フレアの言葉に少女二人が不満の声を上げる
「こら。ダメよ」
けれどフレアが軽く注意しただけで二人は大人しくなった
「直ぐにもどってくるから、待っててね」
「はーい」
シャマルが腰を屈め、目の高さをあわせて言うと素直に返事を頷いてくれた。
「そしたら、ユー姉ちゃんも一緒だね」
「え?」
一瞬の空白。
『ゆーねえちゃん?』
シャマルとヴィータの声が重なり、
「うん!ユーノお姉ちゃん」
元気に答える姉妹
「あ、そうですね。お待ちしています」
フレアもポン。と手を合わせ言う。
その姿はどうみても年若い女性にしか見えない。
だが、目を合わせた一瞬でシャマルは確信した。
(知ってて黙ってる)
「そ、そうね。直ぐに戻ってくるわ。さ、行きましょヴィータちゃん」
シャマルはそう言うとヴィータの手を取り有無を言わせず歩き出した。
「お、おいシャマル?」
「さ、行きましょうね」
「お、おい?」
引きずられる。
正確には背中を押されているのだが心情的に引きずられるイメージで
ヴィータはシャマルに連れられ先へと向かうのだった。
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